文芸同人誌「季刊遠近」第68号(横浜市)
【「青空フリーマーケット」小松原蘭】
バツイチで32歳、一人暮らしの「私」。女友達に誘われ町のフリーマーケットに参加することにする。私には、マサージ師をしている22歳の男と恋仲になる。だが、男の方からは、最近は飽きられて、別れたがっている。そこへ、フリーマーケット専門の窃盗にやられる。困っているところに、フリマ慣れした若い男助けられる。そこで、その男に恋をする。女心は異常気象。気分だけで、物事を決める。その生活意識の女性的くだらなさを、いちいち書ききっているところに、現代的な作家手腕を感じる。
【「働かざる者食うべからずだと」逆井三三】
出だしは21世紀の社会を論じているので、評論かなと思っていたら、浩一という男の半生記のようなものに変わる。まず、15歳くらいのころ、性欲がでてきて、女性と付き合うが、性的な関係には至らない。それを思春期の恋とする。美人が好きだということもなく、不美人でも良いと思っている。一部引用すると、
――21世紀に生きる普通の大学生であるはずの浩一は、未来に何の希望ももっていなかった。といって現在の生活に困っているわけでもないし、未来に対する危機感を抱いているわけでもないーーとするところがある。
やがて大学生で明美という美人でもないが、太り気味の女性と交際し、童貞と処女が納得し合って男女の関係になる。
要するに安定した社会の制度に適合して、なにも成し遂げなくて、50代の人生を問題なく過ごしているということが示される。そして、最終文にー私は幸福だったーという過去形のことばで終る。
昭和で20年間、平成で30年間の平和な人生を描いて、この時代の人生の本質を浮き彫りにしている。
純文学として理解するならば、一般的な人生観にこだわらないことに、こだわった点で、評価にできるかも。多くの人は、平凡であることの非凡さに同感するのではないだろうか。
【「妾子作家列伝」藤民央】
それぞれ著名な作家の出生の状況をよく調べて、説明している。明治、大正、昭和の時代の環境で、人が自分の立場をどう理解するかの資料になる。取り上げている作家は次の通り。
木村曙(1897-1890)/木村艸太(1889-1950)/木村荘八(1893-1958)/木村荘十(1897―1967)/千家元麿(1888-1948)/室生犀星(1889-1962)/高見順(1907-1965)/八木義徳(1911-1999)。
発行所=〒225-0005横浜市青葉区荏子田2-34-7、江間方。「遠近の会」
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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