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2018年12月 5日 (水)

同人誌評「図書新聞」(2018年12月1日)評者=越田秀男氏

  (一部抜粋)
  『島の墓標』(宮川行志/九州文學43号)――世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン」、この登録に乗じた、天草上島沖に浮かぶダデグ島の古文書と埋蔵金をめぐる、正義の味方対、利権市長、生臭坊主の戦い、で結果ウィンウィン、ハグハグ。ところで〝ダデグ島〟なんて聞いたことないが、全部作り話とも思えない。
  同誌巻頭の『出島甲比丹』(中野和久)は幕末フェートン号事件を題材に出島商館長を主人公にした歴史小説仕立ての物語。この作品も史実と虚構の境界が楽しめる。
  『大和川』(稲葉祥子/雑記囃子23号)――竹や桃からかぐや姫や桃太郎、ならばPCの立ち上げ時間を寄せ集めて人造人間を虚構っちゃえ? ピノキオより不自然! 歳は20に、70半ばであの世、に設定。アラ40の主人公と日本一汚い大和川でおにぎりデートして結婚、子はご飯の炊きあがり時間を寄せ集めて……この提案は却下。やがて彼は設定年齢でタケコプター装着練習中、落下して死亡。彼女は気づいたら100歳、浦島花子。
  『きらいなにおい』(三上弥栄/星座盤12号)――大和川は水質改善が進み鮎の産卵も。隅田川も今や白魚が棲める。みんな清潔、消臭剤大繁盛。で、臭いに超敏感女現る。彼女もその夫も会社仕事に不適合。今まで支えてきた縁者にも見放され……。この小説、おもしろいのは、超過敏女の自己中的愚痴を聞いていると、みな五十歩百歩で、今やこの世の中一億総過敏症時代のようにも感じてくる。
  〝現代〟の居場所は険しい――『居場所』(小林忍/てくる24号)――夫婦娘三人家族マンション生活に妻の母が同居をはじめて、居場所を失った夫。飲み屋にやってくる女との不倫、娘につきまとうストーカー、飲み屋の隅の席に陣取る猫、猫の席を奪う酔客、なんや満席かいな! と止まり木無く帰る客。冒頭の失神雀を含め材料を上手に関係づけて、あなたの居場所は? と問う。
  同誌の『赤いポール』(井川真澄)も老人の居場所がテーマだ。日当たりの良い公園のベンチでヒネモス、の爺ではなく、ベンチから追われ、追われ、消えた爺……。
 『虹の輪』(水木怜/照葉樹14号)は公園を清掃するボランティア爺の話。その爺に、いつもジョギングで出会う青年は、ある不自然さ、異常さを感じ、爺の暮らしの内側に立ち入っていく……と、その奥には20年前、愛ゆえのほほ笑ましい些細な行為が、神の存在など信じ得ぬ惨劇に転じてしまった事故と事件があった。
  『丸山のフキの下に』(白川光/北狄383号)――時代は江戸、弘前。三内丸山の地に自生する葉が二段の蕗? その下にコロボックルが住む? どこでも探検隊、発見! 桑の実ワインを呑みすぎて蕗の葉からスッテンコロボックル! だが、21世紀のコロボックルの住処は?
  『夏野旅路』(加藤康弘/矢作川40号)――「背にもたれていた木から、一匹の蝉が羽ばたき、西陽の彼方に消えていく」――町の札付き問題児に、年上の幼馴染みへの恋心が突然やってきた時、それは別れの時でもあった。思春期の喪失感が歌われる。
  沖縄の歌――「南溟」5号では、平敷武蕉が「玉城寛子論」を展開。「くれない」195号では、翁長知事哀悼の歌を特集。「コールサック」95号では、同社が刊行した『沖縄詩歌集』の書評などを紹介している。惨・怒・怨・哀に満つるなかで、心の芯に響く歌――
【参照:史実と虚構の境界を楽しむ(『島の墓標』『出島甲比丹』)――臭い過敏症や居場所喪失など“今”を写す――『きらいなにおい』『居場所』

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