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2018年12月23日 (日)

【文芸時評】12月(東京新聞)文芸この1年(上)佐々木敦さん×安藤礼二さん

   文芸時評を執筆している批評家の佐々木敦さんと、文芸評論家で多摩美大教授の安藤礼二さんが2018年の文学について語り合いました。(文中敬称略)ー一部抜粋ー
◆奥泉、巧さの極致に(佐々木)
 安藤 今年を振り返ると、歴史と物語の関係を再考するものが多かったと思います。平成が終わることが決まり、もう一度、作家が歴史をどう解釈し、自分なりの物語として書くかが問われました。
 佐々木 新書でも歴史ものがベストセラーになっており、歴史への関心が無意識的なレベルで高まっていると感じます。その点で今年を代表する作品としてまず挙げたいのが、戦前の昭和を舞台にした奥泉光の『雪の階(きざはし)』です。彼のお家芸ともいうべきパターンですが、ミステリーの形式を取りながらどんどん話が混沌(こんとん)としていく。普通のミステリーのように結末で物語が収束することなく、読者を異世界に連れていく。今作では文章も語り口も巧(うま)さの極致に来ている。
 安藤 奥泉は、この本で三島由紀夫と松本清張とを一つにしたかったのかなという気がします。
 佐々木 それは明らかにありますね。僕は先日「豊饒(ほうじょう)の海」の舞台を見たのですが、昨年は「美しい星」が映画化され、今年も大澤真幸が新書(『三島由紀夫 ふたつの謎』)を出すなど、三島のプチブームが来ている。古川日出男の最新の戯曲も「ローマ帝国の三島由紀夫」だし。これも平成の終わりと関係があって、三島というスクリーンの向こう側に見えるのは天皇なんです。
◆異質排除する論壇(安藤)
 安藤 女性作家が増えたとはいえ、やはり文学界は根本的に男社会だったことが露呈したのが、早稲田大の文学学術院で起きたセクハラ問題。大学の問題と文学の問題が連動している面があります。教育現場では、教える側と教わる側が非対称で、権力関係が醸成されやすい。そして、文学というものを本当に教えられるのかという点も問われました。誰もが作家になれるわけではない。小説を書きたい学生が大学の教員から学ぶのは、不幸な出会いではないかと以前から感じていました。
 佐々木 あの案件については一切擁護できない。被害を申し立てた元大学院生の勇気ある行為によって問題が表面化したことはたいへん良かったし、再発に対する歯止めにもなり得る。また、寄稿がLGBT(性的少数者)への差別的表現だと批判され、『新潮45』が廃刊になった問題では、文芸誌が意外なほどビビッドに反応しました。そうしないわけにもいかないということもあったでしょうが。
 安藤 右と左に分かれがちな論壇誌を見ると、どちら側も異質の意見を入れる余地が全くなく、うんざりします。
《参照:文芸この1年 佐々木敦さん×安藤礼二さん 対談(上)》

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