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2018年12月24日 (月)

【文芸時評】12月(東京新聞)文芸この1年(下)佐々木敦さん×安藤礼二さん

◆反現実的小説の時代(佐々木)
 佐々木 第百五十九回芥川賞の候補作「美しい顔」の問題にも触れたい。東日本大震災で家族を失った少女を主人公にした小説で、ノンフィクション作品との類似表現が問題になりました。デビュー作だった北条裕子に脇が甘いところがあったのは事実。この作家は二作目が書けるかどうかが勝負でしょう。
 安藤 震災を題材にしたのが全ての原因だと思います。歴史を描くか、フィクションを描くか、位置取りが明確でなかった。震災は非常に強いリアルなので、題材にするにはたいへんな覚悟が必要。
 佐々木 確かに、本人も被災地に行かずに書いたと公言していて、盗作疑惑がなくても批判される可能性はありました。ただ、それでも擁護したいと僕が思うのは、あれが新人の第一作だったからです。推測するに、彼女はテレビ報道で震災ポルノ的なものを見て、心の底からムカついたんだと思う。だから主人公の少女はやっぱり作者自身なんです。その個としての切実さは認めたい。
 安藤 でも、震災を文学に利用しては駄目ですよ。確かに、文学作品は究極の反社会性を持たざるを得ないところがある。笙野頼子(しょうのよりこ)の『ウラミズモ奴隷選挙』には、男性の痴漢する自由が、『新潮45』問題の起きる前にパロディー的に嘲笑されています。ただ、彼女は自分が言葉の暴力を行使しているということに自覚的。作家は言葉の暴力にあらがうと同時に、その主体であることを踏まえ、それに伴う責任を引き受けなければいけない。
◆言葉の暴力に自覚を(安藤)
 安藤 今の作家たちが未知なるものに挑む力をすごいと思う一方で、どこか既視感もある。例えば人間にとって性的な欲望とは何かという問題。かつては性を正面から描くのがある種の解放でしたが、今はむしろ性の交わりがない中で、どうやってコミュニケーションを取るかという主題が目立ちます。
 佐々木 その問題をはっきりリアルに描いているのが村田沙耶香。性や生殖が人間の営みの基本になっているという人間観自体にノーを突きつけている。『地球星人』というタイトルも秀逸。『殺人出産』『消滅世界』、そして本作と、家族とか人間関係とか、常識だと思われていたことを全部壊していく。一方で、「日本」を徹底的に相対化し、ドメスティックな問題自体を無効化するという立場を取るのが多和田葉子です。『地球にちりばめられて』では、日本という国そのものがなくなっている。
 安藤 多和田と書き方も主題も対極的に見えるのが平野啓一郎の『ある男』。主人公は在日三世の弁護士で、戸籍を交換した男を追ううち、彼自身もアイデンティティーを失っていくという話。ストーリーテラーとしてうまい。多和田作品が外側に開かれているとしたら、平野は内側に同じような問題を追っている気がしました。
(後半省略)
<ささき・あつし> 1964年生まれ。批評家。著書に『新しい小説のために』『ニッポンの文学』『シチュエーションズ』など。
<あんどう・れいじ> 1967年生まれ。文芸評論家、多摩美術大教授。2015年、『折口信夫』でサントリー学芸賞。近著は『大拙』。
《参照: 文芸この1年 佐々木敦さん×安藤礼二さん 対談(下)》


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