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2018年11月21日 (水)

文芸同人誌「浮橋」第2号(芦屋市)

【「セッカ」曹達】
 作者の住む山荘は、ガラス戸があって、そこに小鳥が衝突し、気絶したり、そればかりか、死亡したりする。ツグミやヒヨドリ、セッカなど小鳥たちの行動観察と、それに付随して亡くなった家族への想いなどが描かれる。短いが文学味の横溢した作品で、品位もあり、心安らぐ一遍である。冒頭作品の出来の良さから、以下のその他の作品に大いに期待したが、文学的な雰囲気では、本作をしのぐようなものはなかった。
【「ゲルトルード・コルマル作、藤倉孚子訳『沈黙するものたちのの言葉』(書肆半日閑)を読む」佐伯圭子】
 ゲルトルードという詩人を知らなかったが、ベンヤミンの親類筋にあたるユダヤ人で、ナチスに捉えられ、消息を絶ったという。ベンヤミンは国外逃亡したが、途中で自死したとされる。抹殺された悲劇の女性のやわらかな心の一端を紹介して読み応えがある。
【「幽閉」柳館和彦】
 武蔵野に住む小説家の動向を独自の視点で語る。読めば、桜上水で自死した太宰治のこととわかる。井伏鱒二や志賀直哉との葛藤などが、語られる。また、女性関係とそのしがらみに苦しんでいた様子を語る。今年になって、桜上水に近い飲み屋に出入りしていて太宰治と交流していた母親の娘である林聖子氏今もいる。長年経営してきた、新宿の文壇バー「風紋」を高齢で閉店した。新聞にも報道された。その直前に、彼女に話を聞く機会があった。思春期の彼女をモデルにして太宰は短編小説を書いている。聖子氏の話によると、太宰が入水した時、その居酒屋にいた聖子氏も、行方不明になった太宰たちを川ぞいに探したそうである。
【「主婦Kの日記」岩崎和美】
 日付入りの日記体で、同人誌にはあまりないスタイルなので、興味をもった。読んでいって、夫の愚痴のほか、なにもないので、驚いた。その辺の主婦でももうすこしましなことを考えている女性を自分は知っている。
【「炎」曹達】
 近所の神社が火事になり、類焼被害を避けるための活動など、火事現場の様子が密度の濃い文章力で、描かれてており、ひきつけて読ませる。
 その他作品もすべて目を通した。全般に短文、短編が多いのは、同人誌の性質に合致している。そのなかで、本誌に限らないが、問題提起や意図が、どこにあるのか明確さに欠けるものが多い。作品紹介するには自分の読解力と書く気力の不足を嘆くしかない。
発行所=〒659-0053芦屋市松浜町5-15-712、小坂方。
紹介者=「詩人回廊」編集者・伊藤昭一。

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