総合文芸誌「ら・めえる」第77号(長崎市)
【「信仰に育まれた世界遺産―苦難の歴史に想うもの」城戸智恵弘】
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎・熊本)についてユネスコ(国連教育科学文化機関)が、今年に世界文化遺産として登録することを決定した。これに関連して筆者は「隠れキリシタン」と「潜伏キリシタン」のニュアンスの違いを追求する。さらに、日本の織田・豊臣・徳川時代に、長崎来訪をしたその時々の西欧諸国アジア征服の野望の影がさしていることを指摘する。
宣教師は宗教心による行為であってしても、その布教には国家的な強権力があった方が、好都合である。そうした世界の弱肉強食の価値観のなかで、キリスト教が利用されてきた面を指摘する。それが、2の項、「宣教の背後に蠢くものー殉教の歴史は複眼的に」にある。さらに島原・天草の乱については、それが共同体の生存権をかけた農民一揆なのか、はては階級闘争の兆しなのかと、マルクス主義思想の歴史観とも比較し、知見の幅広さを発揮している。
いずれにしても、宗教と外交、国際的なイメージと国政の関係が、われわれが意識するより、深くかかわっていることを立証する力の入った論文である。
これを読んで現代をみれば、神社神道の流れの自民党と、新興宗教の団体力を利用した政治家の運営による。そこに政治家の信仰心などはかけらもないという現状を考えさせられた。
【「大いなる虚構 日本悪玉論」藤澤休】
ここでは、日本の太平洋戦争での敗戦により、戦勝連合国が裁判を行い日本が裁かれたという事実によって、様々な負の部分だけが国際的に強調され、日本が悪玉にされている現状は、間違っているという主張である。通常のいわゆるネトウヨ理屈とちがって、その根拠を指摘証明しようとするものである。
このように、真正面から日本の姿を論じることは、賛否の先入観を超えて賛成である。
まず、戦争の結果を勝者が裁くということ自体が、正当なのかということに対して、インドのパール博士が述べた、東急裁判の結果への正しい受け止め方を示す。
広島の「過ちは2度と繰り返しません」という言葉の解釈は、敗戦国日本人にむけたものなのか、米国を含めた全世界の人間に向けたものなのか、という問題提起をしている。また、中国の南京虐殺30万人説の虚偽、韓国の慰安婦問題の虚偽などを、その後の調査報道を示して否定している。証拠として、朝鮮人が朝鮮人を拉致して、慰安婦にしていて、日本警察がそれを取り締まるという朝鮮の東亜日報の昭和8年6月30日付け新聞報道や、平成26年8月10日のフジテレビの報道で、済州島では、慰安婦にするための日本軍の強制連行は見たことがない、とする現地人の報道などの写真を示している。これは、これでそれなりに異論はない。
日本は、負ける戦争をしたために、ひたすら堪えがたきを堪えることに対応してきた。各国からの反日、日本悪玉論の槍に体をかわして、世界の仲間入りをし、浮上してきた。9条の2項は、それをしなければ、世界のなかで生きていけなっかたのかも知れない。世界秩序のなかでのイメージの変更に成功してきている、と言えるのではないか。批判されることは仕方ない、それよりも過去の加害を許してくれている人々に感謝したいものだ。
その当時のことは、資料で知るしかない。日本帝国時代でも朝鮮とは戦争をしておらず、日本に敵対してきた国連軍も、朝鮮を国連軍側としなかった。朝鮮における反日という精神思考の背後には、なにか不可解な部分がある。当事者たちにしかわからない何かが隠されているように思う。中国は、日本と戦っているので、反日を国是とするのは、中国共産党の政策である。国連側の敵国条項に日本はいまだに入っている。敵国扱いをやめず、に金を出せとか、他国支援しろとかいうのが、現在の国連である。日本帝国主義は、否定されるべきと思っても、民族の誇りを否定されるものではない。その感情が現れた論文である。
【「奥さんの匂いに魅入られる」砂田良一】
堅苦しい論文のなかで、これは楽しく読めるお色気作品である。表現もエロチズムみちた雰囲気を盛り上げるのに巧みで、ユーモアを感じさせながら気分を明るくさせてくれる。面白かった。
【「T四作戦」吉田秀夫】
昨年10月ドイツで「第17回世界精神医学会」が開催されたという。50歳の山本医師は、日本から観光ツアーで参加した記録である。自分は知らなかったが、ドイツナチス時代に「T四作戦」というものがあって、精神障害者の根絶作戦だったという。この論理では、自国民であっても人体実験による精神障害の研究が、正当化されていたようだ。その時代の出来事をドイツ人医師が、重く強い反省をこめて、解説した様子が描かれている。そのドイツ人女性医師は、事実に沿ってナチスドイツのしたことの非道さを、外国人にも説明する、モラル精神の強靭さに、読んでいて感銘を受ける。差別精神の暴走である。日本では、かつて731部隊の存在があり、それを批判することの論理はそれほど広まらない。その情報を占領国である米国に渡したころで、従属国として事実の広まりを抑圧されたという事情が見えないこともない。
編集人・新名規明。発行所=〒850-0918長崎市大浦町9-27、田浦事務所「長崎ペンクラブ」。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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