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2018年11月11日 (日)

季刊文芸誌「日曜作家」第24号(大阪府)

【「ひまわりとオムライス」椿山滋】
 父親の13回忌に、満智子は母親がいる実家に帰る。弟は幾度も実家に行って、59歳になる母親の様子を見に行っているらしい。
 満智子には、母親に関してつらい思い出がある。高校三年の時に、具合が悪くて授業を早引けして帰宅した。そのとき、母がいる筈なのに、家の出入口のすべてに鍵がかかっている。そのうちに若い男が家から出てきた。しれっとして言いつくろう母親に、彼女はショックを受ける。38歳になった今でも、その傷ついた感情は、消えない。
 久しぶりに母親に会い、食事をするが、弟にアドバイスするような、認知症のようには見えない。しかし、法事の日まで満智子が実家に泊ると、弟の説明のように、一種の記憶の不安定なまだら認知症とわかる。
 そして、満智子の母親への批判は、母親の自分への愛情が弟の方に移ってしまったとが感じたことがトラウマになっていることを悟る。
 判りやすい設定と書き方で、構成にバランスが取れている。読みやすく、話が受け入れやすい。読み物としては、読者を深刻にさせずに安心させる。しかし、構成の在り方で、終章にもっと盛り上げる効果を出すことの可能性もある。わが師であった故伊藤桂一氏は、私の提出した作品こういう点があると「うふふ。ぼくだったらもっと、巧くかけるよ」という言われたものである。「テーマは良かったのか?」と、今でも悔しく思うことがあった。。
【「平成最期の夏、ボクは…」大原正義】
 42歳で引きこもりの生活をしている、井村健太という男の話。両親は交通事故死し、祖母の年金で暮らす。家は40坪で、庭付きである。祖母がなむなると、年金が入らなくなるから、電気やガス水道を止められ餓死するまでが描かれている。もちろん、創作であるが、それだけに想像力の範囲なので、論理的に描かれており、フォログラムでもみるような幻想イメージ。それなりに統一感のある出来上がりになっている。
 引きこもりは社会的な人間性の喪失であろう。その精神的な状況はさまざまで、事実的にこのように、もっともらしいものは少ないかも知れない。それでも何となくまとまっているのは、作者の創作力の内面的な蓄積であろう。自分が気が付いたのは、家庭内暴力がないことかな。政治を批判するようなタイプは、暴力的になる。またここでは、死ぬことに対する発想が薄い。たとえば、東日本大震災の地震津波の警報であっても、説得しても引きこもりの人は避難しなかったという話がある。死ぬ機会を活かしたのではなかろうか? などと思う。
【「居酒屋だより(10)居合いの稽古に励む老人の話」野上史郎】
 タイトルそのままで、居合いの修業と云うものが、どういうものかわかりやすく解説されている。
【「千葉躬治先生の思い出―N響の顔、故千葉馨氏の尊父を偲ぶ」加勢駿】
 これはN響の歴史の記録に残すべきエッセイだという人がいたので記録にしたそうだ。
 【「マインレンデル素描」桂一郎】
 若い時代には、自死した短命な作家たちが独自の世界を作り上げているように思える。おそらく先が長いということが、不安を呼び、死を意識させるからであろう。ここでは、「救済の哲学」を著しながら、30歳代で自死したマインレンデルというドイツの哲学者の存在を紹介している。森鴎外や芥川龍之介も彼について書いていることが引用によって示されている。しかし、菊池寛や広津和郎など同時代の他の作家たちは、名前だけは知っている程度だという。自分が興味を持ったのは、菊池寛の著書「日本文学案内」(昭和13年)を持っていからだ。そこに作家になるための必読書として、作品と作家示されている。その海外作家の部分に、現在では読まれていない作家が幾人かいる。菊池寛が、なぜ、その作家を重要視したか、その背景を調べることを考えている。菊池寛は、同書のなかで、「文学には危険性もある」としている。しかし、それがどのようなものかは言及していない。案外、ここに記されたマインレンデルのような作家のことかも知れないと、想像力をかきたてるものがある。
発行所=〒567-0064大阪府茨木市上野町21番9号、大原方。「日曜作家」編集部。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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