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2018年10月 1日 (月)

文芸誌「樹林」2018(AUG)Vol.643(大阪市)

 本誌は、大阪文学学校の機関誌でもあり、生徒の作品発表の場であるようだ。作家研究の資料は、ひとつが見つかると、次々と関連情報が発見される事例であろう。この事例としてー安芸宏子「三島由紀夫『潮騒』の新資料発見などについての報告」】につては、「三島由紀夫「潮騒」の新資料発見記(安芸宏子)=「樹林」ーにジャーナルとして紹介した。 これはどうも、あとから出てきた資料のきっかけとなったようだ。
【「小説友達」藤本紘士】
 横浜市にある小さな出版社主催の文学賞を受賞した「私」は、その1日前に、尼崎市から東京の京浜蒲田にやってくる。この町にはかつて「黒猫」という男性老作家の朗読会をするバーがあった。それが現在でも続くいているという。そこで、「私」そこに再び脚を運ぶ。そこで文学好きの仲間のような男と知り合い、「私」の文学的な好みなどが語れる。地名の実在するものであるのに、日本人作家の名称はなく、フィクションとしてのスタイルであることがわかる。なかで、ゲーテ「詩と真実」のなかで、上流階級が芸術活動に精進すると、非常に栄誉に包まれた一生を送ることができるが、中流より下の人間が芸術に身を捧げると、悲惨と迫害の生涯となる」と書いているらしい。階級社会の浸透した欧州らしい話として面白かった。文学カルチャーのオタク化へ向かう、ひとつの流れを感じさせる作品。
【「贋夢譚」稲葉祥子】
 あなたは何のために日本に来たのですかーーというフレーズで始まり、外国人の日本での生活のギグシャクしたところを描き、そして、実は人間がこの世に生まれきたことへの違和感へつなげて、母親の胎児にもどるような話になっている。
【「ランドルト環」岡田智樹】
 うなぎのタウナギが、水希という人間になっているという、馴染みの薄い設定の話。このような擬人化は、昔からあるが、この書き方であるとイメージ的にまとまって受け取りにくい。マジックリアルズム系のような語りかたと表現が通じる時代になったのあろうか。
【「小説の生まれるところ」染谷庄一郎】
 個人的メモ、買い物レシート、日記、エッセイの書きかけなどを並べまくる。作者は小説を書こうとしているーーそのドキュメントにも読める。創作には自己表現の意欲が含まれるが、その一つの姿に読める。
【連載講座「小説表現の基本」奥野忠明】
  小説と小説ではないものの区別の基準になる点などが、わかりやすくルールになる事例が説明されている。同人雑誌の作品には、小説やエッセイの区別がつかないものや、文字認識とコミック、映像の認識の違いの混在したものが少なくない。前衛といわれればそれまでだが、ある程度は鑑賞側のもつ共通認識に沿ったルールに従った方が良いようにと思わせる。
発行所=〒542-0012大阪市中央区谷町7-2-2-305(新谷町第一ビル3F)、大阪文学学校・葦書房。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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