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2018年10月26日 (金)

同人誌評「図書新聞」 (2018年10月27日)評者=志村有弘氏

   (編集抜粋)
  北村くにこの力作「創成川慕情」(「人間像」第188号)。二代にわたる札幌の家具店の物語。初代の鹿子、その息子福太郎の嫁春代の気っ風のよさ。女道楽を繰り返しながら、結局は妻に舵取りされている菊太郎(鹿子の夫)と福太郎。そうした商家の人たちに寄り添うように流れている創成川。語り手役の次郎の息子の嫁(咲ちゃん)の言動も微笑ましい。登場する女性たちの姿が痛快だ。オリンピック開催に伴う立ち退き勧告、閉店となる状況、創成川への次郎の思い……。巧みな文章で綴られた、規模雄大なドラマ。
 矢野健二の「故郷」(「残党」第46号)は、随想の色彩を有するが、私小説として読むべきであろう。八十歳近い作者の故郷は屋久島。昭和三十三年、急行列車で二十六時間余りかけて上京した。今はマンション住まいで一坪ほどの菜園に汗を流す。作者の住む町で、夕方、流れるメロディは「故郷」。それに端を発し、加齢をぼやきながら、故郷論を展開する。室生犀星の「ふるさとは遠きにありて……」の思い出、流行歌、高校野球を論じ、リンゴのような赤いほっぺたの娘がいなくなり、日本から故郷が「消えてしまった」のかと嘆く。鋭い文化論でもある。
 西向聡の「幽霊」(「法螺」第77号)は、いくつかの怪談めいた話を綴る。私は、中学校の警備員となった友人が、夜、廊下に座っていた女生徒(警備員は最初幽霊かと思う)と結婚していた話(三十歳の年齢差)に恐怖を感じた。
 豊岡靖子の歴史小説「藕糸織の仏」(「あべの文学」第27号)は、足利義政の傅役今参局と義政母との確執を綴る。今参局の凄絶な切腹の場も示す。歴史の流れに沿って書いている感じもするが、登場する女人たち一人々々の言動が個性的だ。日野富子を美貌の女人とし、婚儀のとき以外、目立った行動をさせていないのも一趣向かと思った。
 本千加子の「鬼灯」(「黄色い潜水艦」第68号)の舞台は、大正・昭和期の遊郭。主人公は、大正九年、徳島から大阪の飛田遊郭に下働きに来た加代(十五歳)。下働きをしているうちに、資産家時任治平が加代を孫のように可愛がり、多額の金を与えて逝く。やがて加代は楼主から弟が営む大和郡山の飛鳥楼に手伝いに行くように頼まれ、そこで働くうち、二番頭の宗太と結婚する。加代は幸せな日々を送っていたが、高級おやま(娼妓)華奴に惚れ込んだ男が華奴を刺殺し、取り押さえようとした宗太をも殺すという事件が起こった。加代は飛鳥楼でおやまたちの着物の仕立てなどをして暮らしていこうと考える。梅毒をうつされた女、男に騙される女も登場する。加代の誠実な姿が読者の心に優しく響いてくる。佳作。
 秋田稔の「幻想奇談」(「探偵随想」第132号)は、四篇全てに河童が登場する。「池」は、河童が探偵作家の行方不明のわけを語る内容で、作家の背中に手をやったら、作家は池にはまったのだという。「わたし、いけないことをした?」と訊く河童の言葉の恐ろしさ。「骨」は、酔った勢いで骨董屋から河童の左の鎖骨を購入したところ、博物館で見た河童の骨格は左の鎖骨が欠けていたという話。柔らかい筆致とは別に、それぞれの作品が発する恐怖感と着想の鋭さに脱帽。
 資料的価値の高いエッセー群に注目。「草茫々通信」第12号が佐多稲子の特集。長谷川啓の巻頭論文「『時に佇つ』に到る道」は、佐多がいかに自分に厳しく誠実に生きてきたかを示し、他に、略年譜、主要作品案内など、佐多の文学世界を一望することができる。また、「詩界」第265号が『月に吠える』100年の特集を組み、大塚欽一の「萩原朔太郎詩にみる存在論的彷徨」など二十名が『月に吠える」、また、朔太郎をそれぞれの角度から論じ、思いを述べている。着実な歩みを示す「吉村昭研究」も43号を重ねた。 (相模女子大学名誉教授)
《参照:北村くにこの二代にわたる商家の物語を描く(「人間像」)――本千加子の大正・昭和期の大阪・大和郡山の遊郭に生きた女人の物語(「黄色い潜水艦」)。資料的価値の高いエッセー群

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