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2018年8月 2日 (木)

文芸時評8月(東京新聞8月1日)=佐々木敦氏

  第百五十九回芥川賞は、高橋弘希「送り火」(『文学界』5月号)に決定した。高橋は二〇一四年に「指の骨」で新潮新人賞を受賞してデビュー、同作は第百五十二回芥川賞候補となった。以後「朝顔の日」(第百五十三回)、「短冊流し」(第百五十五回)と候補に挙げられたが受賞はならず、四度目の候補となった今回、ついに栄冠を射止めた。
  私は以前、芥川賞があるから「文学」は延命している、という説を述べたことがある(『ニッポンの文学』)。これは批判でも現状追認でもなく、単なる事実確認だが、しかし私はやはり現在の「芥川賞一強体制」は好ましくないと思っている。だが正直言ってどうにもならないし、むしろその強さはいや増す一方なのだ。
 ここで今回の候補作の一本でもあった北条裕子「美しい顔」(『群像』6月号)が引き起こしている問題について触れておきたい。私はこの作品に大変感銘を受けた。それは前に本欄にも書いたとおりである。だが私は、この小説が芥川賞候補に挙げられることが望ましいとは思っていなかった。前にも書いたことがあるが、私は新人賞受賞作すなわちデビュー作がそのまま芥川賞を受賞してしまうことは、その作家自身にとってよいことではないと考えている。だが、それとは別に、候補になる可能性は高いと思っていたし、候補になれば受賞することもあり得ると思っていた。
 そこに今回の「盗作」騒動が起こった。北条は「美しい顔」を執筆するにあたって参考にした数冊の書物を記していなかった。類似した表現があるという指摘を受けて『群像』の出版元である講談社は作者に確認し、参考書籍のリストを公表するとともに、そのうちの一冊である『遺体』の著者、石井光太氏などに説明と謝罪を行った。
 だが、その時点でインターネットを中心に北条の行為が確信犯的な「盗作」だとする声が広がっており、非難や中傷を受けて講談社は声明を発表、盗作には当たらないという見解を表明するとともに、この小説の全文をホームページ上に無料公開した。この問題は現在も完全な決着には至っていない、進行中の案件である。
《参照:高橋弘希「送り火」 北条裕子「美しい顔」 佐々木敦

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