文芸同人誌「白雲」第46号(横浜市)
【「鐡輪」畑井俊幸】
寺の住職のところに、見知らぬ男が訪ねて来て、今日すぐに2人の33回忌供養をして欲しいという。戒名も不明で、住職は不審に思うが、とにかく供養をすませる。何故供養を依頼したのかを、その男にきく。それによると、男は戦後まもなく幼少期から風俗街の花街に育ち、御姐さんたちに可愛がられれ、男女の秘事を知ったりする。そのうちに成人になって社会人になって、付き合っている女性をよそに、上司の夫人と関係をもつ。付き合っている彼女は、恨んでその夫人に呪いをかける。その出来事が、話を聞いている住職の実家の寺のことだとわかる。偶然を積み重ねて怪談じみた話を、気をもたせながら巧くまとめている。
【「少年Mの回想記(36)ヤミ米ブローカー横行」穂積実】
2・26事件の前に生まれた人の昭和時代の記録である。今回は、終戦後のヤミ米の話で、消費者ではなく生産者が籾の状態で隠した話がある。そのほか、山の杉の花粉が天狗の煙に見えたり、汽車の時代の線路工夫の仕事唄。田舎のそれらしい事情が記されているのが特色である。ヤミ米は赤羽でとれるという逸話など、貴重な時代の記録である。
【「野辺の草花」山本道夫】
中野は、幼馴染みの初恋の女性である美智子を訪ね、10年ぶりに再会する。中野は美智子に愛の告白をする。結果的に美智子は彼の告白を受け止める。話の進行が人称の視点の使い分けで、内面と外面をかき分ける。場面と説明の使い分けで、まぎれのない分かりやすい書き方で、偶然性を利用することのない手法。論理的なつながりを持って、時間をかけたの恋の行方に気をもたせるものがある。
その他、雑誌の傾向として、俳句や短歌のジャンルに重点を置いている編集方針が見える。
連絡所=〒233-0003横浜市港南区港南6-12-21、岡本方。「白雲の会」
紹介者=「詩人回廊」北一郎。
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