文芸同人誌「海」(第Ⅱ期)第20号(太宰府市)
【「巡査日乗」中野薫】
司法の世界では、裁判官・検察官・警察署・刑事・交番勤務巡査のそれぞれの部署がある。そのなかで巡査の勤務の実態が詳しく、書かれている。転勤のこともあり、具体的な地域は記されていないが、現在より少し昔の状況のようだ。自分は、あちこちの警察署に、取材の時とか、容疑者にされた時とか、いろいろな状況で接触したが、時代や地域によって、様々である。そのなかで、法の番人というより、勤め人たちという目でみている。ここでも、そのような側面で官僚組織と仕事ぶりが記されている。文末に、これはフィクションであるという意味のものがあるが、それほど事実に近いということであろう。物語にする舞台が出来ている感じなので、これをベースにしたフィクションが出来るのかも。
【「俺も啄木」有森信二】
家業を手伝いながらの高校通学する良太。これも時代は、ひと世代前のことらしい。父親の改造自転車で通学するところが面白い。そこでの悪ガキからのイジメをやり返し、文芸部の活動もする。その実情は、昭和時代の状況での学生生活。現代におけるスクールカースト的な雰囲気とは異なる感じがする。クラス内のイジメの事例でも、本作では、お互いに腕力的に発展し、勝負で決着がついて、すっきりしている。現代は、仲間外れが「恐れ」となり、陰湿曖昧な行為になっているようだ。昔はイジメにあっても、自殺するなどという発想はほとんどなかったろう。この小説でも、悪ガキの相手がすべてではなく、良太には家業を手伝うという、それより重要なことがあるのだ。それだけ時代背景が異なる。昭和時代を時代劇のひとつにする方法はないものだろうか。
【詩譚「椿岬」群青】
精神科の医師の安藤が、治療していた坂田という男が、遠く離れたところで、発作を起こし、安藤医師の名を告げるので、そこから連絡がくる。そこで駆けつける。坂田は各地に行き、そのたびに安藤は呼び出される。変わった眺めの叙事詩で、どういう発想でこのような作品ができるのか、不思議だ。ただ、社会から排除された者の運命と生き方を集めたようなところがある。結核病院から逃げた人、徴兵から逃れようとして、特高警察に葬られてしまう人々の話などが入る。受け取り方として、世間が目に見えない縛りを作り始めた時代に、そうした枠におさまらない人々の存在を強調した社会批判にも読める。
とくに堀江貴文氏などは「小説の描写を読むのが面倒くさい」という。気の短い現代人には、叙事詩の形式が良いのではないか。
【「あちらこちら文学散歩(第7回)」井上元義】
本格的文学派で、多彩な作者だが、この部門はランボーの情報が詳しくあるので、楽しく読める。ファンという姿勢がはっきりしているので、それが自然なアクセントになっている。詩人と無頼という相性が良さそうな、よくはなさそうなイメージのランボーの魅力が理解できる。
発行所=〒818-0101太宰府市観世音寺1-15-33、松本方。
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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コメント
ご丁寧な評をいただき、感謝申し上げます。今後とも、頑張っていきたいと思います。
猛暑のなか、ご自愛くださるようお祈りいたします。
海 二期 有森信二
投稿: 有森信二 | 2018年8月 3日 (金) 15時02分