文芸同人誌「季刊遠近」第67号(横浜市)
本誌の会長であった永井靖(安藤昌原)氏の追悼号でもある。つい前日まで元気だったらしく、一人暮らしで連絡が取れなくなったので、同人仲間が不審に思って、自宅を調べると、浴槽で自然死していたという話を春田道博氏が、記している。鍵がかかった個人宅の場合、異変を感じて警察に連絡しても、無理やり部屋に入ることは出来ない。身内の者でないと権利がないのだ。自分の友人もそうであった。故人の「私の中の文学の位置」(安藤昌原)が掲載されており、音楽作曲畑からから文学に傾倒していった過程が興味深い。新宿三角ビルの朝カル小説教室で、久保田正昭文氏の教室に参加したという。
【「家計呂麻海市」藤民央】
父親の遺品の整理と、故郷の父の代からの近所付き合いの大変さを題材にしている。91歳で亡くなった父の遺品を点検していると、夢に父が現れるとか、それから、故郷にかえるとか、話があちこち飛ぶが、毛局は、父親の遺品は保存しておくことにする話。
【「再開は雨の夜」花島真樹子】
若い頃に関係のあった男女が、年月を経て偶然再会するが、その時はなにごともなく過ぎる。懐かしい雰囲気の、よくあるような話。話の運びでは落ちがある構造だが、ここではそれがない。
【「別離」小松原蘭】
東大の博士課程の研究室生の恋愛の成り行きの話。思い入れがそれなり出ている。
【「象の夢を見た日」浅利勝照】
田崎という、昔は派手な生活をしていた男と、久しぶりに再会すると落ちぶれているようで、金を500万円貸して欲しいという。用意をしたが、田崎は自殺をしていた。話の素材は面白いが、語り方の手順が不安定で、なにかあるのだろう、と思うがあまりはっきりしない読後感が残った。
事務局=〒225-0005横浜市青葉区荏子田2-34-7、江間方。「遠近の会」。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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