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2018年7月17日 (火)

文芸同人誌「海馬」41号(神戸市)

【「旅のいざない」山際省】
 修三という男の人生遍歴を描いたもの。思い出話が入るため時代の推定が難しいが、四半世紀以上前のことであろう。内容は、幾つかのエピソードの積み重ねで、それをなべてある。駅で2、3日過ごしていると、警官に職務質問されてしまう。それが不満で、対応に協力しないので、交番委に連れて行かれる話。富士製鉄のJ建設会社の飯場で働く話。大型2種免許も取得する。生活苦もなく、自由な気分の生活情報である。最近の文芸同人誌に多い無思想性の生活記録。
【「彼と私と」山下定雄】
 自転車修繕作業と公園の雲梯にこだわる話が延々と続く長編の連結した作品らしい。彼と私は、分裂した存在として語られるが、それぞれのこだわりを主張しながら、統一された「私」として、読者に伝達される。こだわりをああでもない、こうでもないと繰り返すことで、人間性の一面を表現している。
【「タンゲーリーアの歌声」永田祐司】のんびりした
 出だしが、アルゼンチンの港の様子からはじまる。その運びが、話が長いことを暗示している。しかし、骨組みは、人探しの物語でできている。かつての恋人を探しだすために、日本からこの国にやってきた男が寺沢という68歳の男であることが2ページほど読み進むとわかる。彼女には娘がいるが、そのことも寺沢の思い出話のなかでわかる。
 人探しの間に寺沢とタンゴ歌手の関係から、彼の人生上の出来事が思い出物語として描描かれる。結局、探した彼女は見つけ出した娘によって5年前に亡くなっていることがわかる。こうした作りでは、何でも語ることが可能である。よくぞ書いたものだと感心する。そ一方で、の長所がある代わりに、極彩色の糸で織られた手毬のようにあれこれと目を引くことで、話が分裂し、統一的な印象を散漫にするようだ。
 このような幾つもの話を同時進行させるのに巧みなのが、宮部みゆきであろう。息もつかせず読ませる。ベストセラーになるのも当然。そのかわりああ、面白かった、で終る。それと異なる味わいを出すことが純文学としての道だとは思うが、難しいものだ。
発行人=〒675-1116加古郡稲美蛸草1400-6、山下方「海馬文学会」。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

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