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2018年5月11日 (金)

文芸同人誌「浮橋」創刊号(芦屋市)

【「永井荷風『墨東綺譚』に寄せて」上坂京子】
 作家・永井荷風にかんしては、さまざまな評論がでている。それらのうち、社会情勢や溝口健二監督での映画化した「墨東綺譚」と豊田四郎監督のそれとの比較や、永井荷風における女性に対するエゴイズム的な精神などを指摘。なかでも従弟が、永井に似た風貌と性格をしているということなども面白い。
【「空白」曹達】
 タクシーの運転手をしていた浅岡は交通事故で大けがをし、入院をしている最中。手術の麻酔の副作用が長くつづき、朦朧とした意識に、事実の記憶と幻想、妄想が頭の中をかけめぐる。その想念の詳細が、濃密にみっちり描かれていて、読みふけっていたら、正気に戻って、ぷつりと終わる。えっ、と思ってから、これも意外性のある終り方かと、感心する。
【「母との思い出」藤目雅骨】
 私、西村幸子は、母親ゆきが突然居なくなってしまったため、児童養護施設に入れられて育つ。タイトルそのままの話で、平板に叙述する。児童養護施設出身のことでも、いろいろ大変な身の上だが、その心情をさておいて、母の行為の記憶を淡々と語る。生活記録としてはひとつの資料になるかも。語り手の視点に乱れもあり、体験らしいので、それを書くことだけで満足するような作品なのか、判断がつきかねた。
【「消えた人」吉田ヨシア】
 マキツという手形割引業の男との出会いと交流を描いて、なかなか興味深く読ませる。マキツは男性的な機能に不全があるという。交際に性的な制約を押さえているようなところでの愛の交流の記録として素材が用意が、それを生かして表現が足りているかというと、なんとなく突っ込み不足の感がある。
【「乾いた砂の上の蜂」小坂忠弘】
 アパートのオーナーをしている主人公が、部屋の借主が孤独死をし、その後始末や曰くつきとなった物件の他の借主の対応などが、具体的な話の素材であるが、凝ったタイトルと考え合わせると、オーナーの精神状態を、表現するための手段かと、考えさせるところがある。
【「忘れられないこと」広常睦子】
 母親ががんを患い、病院に見舞って付き添い寝をしたところ、夜寝ている間に、足元から何かがもこもこと入り込んで、背中まわるのを感じたが、金縛り状態で動けなかった。その感覚とイメージが忘れられないという話。だそのベッドに魔物がいるように思う。睡眠と目覚め時の神経の短時間の混乱現象と見られるが、よほどリアルな感覚であったのであろう。
【「ハスラーへの道」夏川龍一郎】
 ハスラーを主人公をした小説と思ったら、本人がハスラーでビリヤードの詳しい説明であった。
 他にも読んでいるが、全般に平板な書き方のものが多く、そのれが意図的なのか、自然にそうなったのか、考えさせられた。時代と情況で同人誌の雰囲気が変わることを実感した。ただ、芦屋的雰囲気に満ちたところがある。
発行所=〒659-0053芦屋市浜松町5-15-712、小坂方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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