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2018年5月12日 (土)

文芸誌「みなせ」第78号(秦野市)

【「かげろう」根来澪子】
 宮田美乃里という薄命のフラメンコダンサーがいた。がんで故人になっている。これは彼女の美しさに魅了された作者の生きることと美学についての評論である。宮田さんは、29歳の時に、恋人から婚約を破棄され、歌集「花と悲しみー魂の軌跡」を出版。その頃から乳がんに侵され、5年生存率は6割だという。乳房切除の対応を拒否。絶望のなかで、エロス写真家アラーキーこと荒木経惟に写真制作を依頼する。それが「乳房、花なり」という写真集になる。その本を荒木から贈られた作家の森村誠一が、宮田美乃里を訪ね、話を聞き、ドキュメンタリー的な小説「魂の切影」を刊行している。
 その宮田さんの生き様に焦点をあてて、生きる時間をどのように惜しんでいくかというテーマに迫っている。
 ここには、記されていないが、森村誠一氏は宮田さんに出会う直前に、奥さんを肺小細胞癌で亡くして、喪失感にさいなまれていた時期のようだ。また、荒木氏は、モデルとなったKaoRiiという女性から、「私写真」という手法のために、彼女の尊厳を奪われ、ずたずたにされた、というアートハラスメントともいうべき告白も公開されている。それは余談としても、評論において、人間の失われる命という宿命の重さを表現した秀作である。
【「アンチ群衆の人」多谷昇太】
 いわゆる人間の群れるという素質に抵抗反発する心が生み出す言葉の抽象画であろう。この作者は、よほどの博学家。古典から現代までの文学的な教養は計り知れない。このほかの同時投稿作品を読むと、わかる。また、早く書くことの天才もあり、やたらに書き散らす印象がある。ジレッタンティズムに満ちた作風は、常識的な同人誌では、排除されそうなものであるが、それを肯定する「みなせ」の表現の自由に対する姿勢は貴重である。
【「雑事記ー言葉の研究とエッセイ2題」盛丘由樹年】
 言葉の研究として「すごい」「だいじょうぶ?」「××ぢてもらっていいですか」「ちがう」「べらんめえ」などについて、言及。いずれも、流行ったものの使い方について、本来のものとのずれを指摘している。
【お湯、ときどき水」折葉沢居】
 日本の高齢者の生活レポートのひとつ。家族情況がわかり、細部において、それぞれの事情を知るのに参考になる。
 本誌は、「みなせ」サイトで全作品が公開されている。自由な表現の場に敬意を表して紹介者・伊藤昭一も「知られざるミステリー作家の死」を投稿している。

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