文芸同人誌「石榴」第19号(広島市)
【「クリスマス」木戸博子】
主人公の私は、妻子ある男の子供を宿した身体で、それを相手の男にも、家族にも告げていない。どうするのか? この課題をかかえたままのなか、認知症の祖父が、徘徊中に足を骨折して入院する。私の両親も加わって、祖父の対応に追われるクリスマスシーズンである。
構図的には、老衰期に入っている祖父の認知症的な反抗行為、それに新しい命を宿した私。対応に追われる家族関係から、人生における現代への問題提起がされている。なかでも、認知症の祖父の行動に細かな描写が集中しており、その不合理な反抗ぶりが、小説的な構図のなかにおさまっている。創作的なパターン化が見える。祖父の認知症の対応に加わりながら、私は子供を産むことを決意する。日本の家族関係は、さまざまな形態が生じて来ている。それを認知症の祖父の介護問題と絡めたところが、女性らしい作者の視点がユニークである。
【「写真家宮内民生の到達したもの」篠田賢治】
目次には、作者が高尾祥平となっているが、どちらかが本名なのであろうか。写真家・宮内民生という人の作品評論の体裁をしている。しかし、内容はベンヤミンや、フッサールの現象学の視線からみた、映像表現・言語・コラージュなどの、複製芸術論のようになっている。アクロバチックな、論証展開であるので、なかなか解釈が難しい。現在の二次創作的なジャンルや、シュミレーション的コピー表現論にもつながるのであろうが。ありきたりの芸術評論の平板さを避けようとする、作者の特有の手法であろう。
発行所=〒739-1742広島市安佐北区亀崎2-16-7、「石榴編集室」。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一
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コメント
さっそくのご批評ありがとうございます。これを励みに今後もがんばります。
投稿: 木戸博子 | 2018年4月17日 (火) 07時43分