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2018年3月11日 (日)

文芸時評2月(東京新聞)2月28日=佐々木敦氏

 《対象作品》本谷有希子「静かに、ねぇ、静かに」(『群像』3月号)/松尾スズキ「もう『はい』としか言えない」(『文学界』3月号)/市原佐都子「マミトの天使」(「悲劇喜劇」3月号)/松原俊太郎「またのために」(「悲劇喜劇」)/市原佐都子「虫」(『すばる』2016年6月号)。
  松尾も本谷も演劇から小説に越境してきた才能だが、演劇専門誌『悲劇喜劇』の3月号に、劇団「Q」を主宰する劇作家、演出家の市原佐都子の小説「マミトの天使」が掲載されている。松原俊太郎の初小説「またのために」を掲載しており、意欲的な編集方針と言えるだろう。市原は以前「虫」(『すばる』2016年6月号)という小説も発表しているが、そちらは「Q」としての演劇作品の小説版だった。今回はオリジナルだと思うが、原稿用紙百十枚の中編を、「Q」の芝居を彷彿(ほうふつ)とさせる濃密で異様なテンションのモノローグ(独白)で押し通している。ほとんど狂気の域に達するほどに「正常」な女子のモノローグ。正常であり過ぎるからこそ、この世界では、こんな世界では、狂うしかないのだ。新聞では粗筋を紹介するのも憚(はばか)られる内容だが、この言葉の力は相当なものである。市原も遠からず文学の側から注目されるだろう。
 《参照:本谷有希子「静かに、ねぇ、静かに」 松尾スズキ「もう『はい』としか言えない」 》 

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