文芸時評1月(東京新聞) 佐々木敦氏=デビュー作芥川賞2作品
以前紹介した際にも、特に若竹作は高く評価した。心密(ひそ)かに、これは芥川賞候補に挙げられるのでは、候補になったなら高い確率で受賞するのでは、とも思っていた。予想は見事に当たったわけだが、今回は作品評とはやや違った角度から述べておきたいことがある。
それは今度の芥川賞の二作が、どちらも新人賞の受賞作、すなわち第一作だということである。「百年泥」は「新潮新人賞」、「おらおらでひとりいぐも」は「文藝賞」を受賞した作品であり、つまり石井氏と若竹氏はいずれもデビュー作でいきなり芥川賞を射止めたわけである。そもそも芥川賞は賞規定としては「新人賞」ということになっているのだが、だからといって新人賞(デビュー作)で芥川賞というケースはけっして多いわけではない。
だが、ご存じのように前回の芥川賞も「文学界新人賞」の沼田真佑(しんすけ)「影裏(えいり)」が受賞した。その前は、文芸誌へのデビュー作の芥川賞受賞は第百五十三回(一五年上期)の又吉直樹「火花」があるが、文芸誌新人賞受賞作となると、第百四十八回(一二年下期)の黒田夏子「abさんご」が「早稲田文学新人賞」だが、仔細(しさい)は省くが黒田氏は実は再デビューなので、正確には「群像新人賞」だった第百三十七回(〇七年上期)の諏訪哲史「アサッテの人」まで遡(さかのぼ)らねばならない。そして、文芸誌新人賞受賞作=デビュー作=芥川賞が二人並んだのは、ひょっとしたら史上初めてのことなのではないか?
《参照:芥川賞2作品 デビュー作受賞、時期尚早か》
| 固定リンク
コメント