« 文芸同人誌「婦人文芸」98号(東京都) | トップページ | 文芸時評1月(東京新聞) 佐々木敦氏=デビュー作芥川賞2作品 »

2018年2月11日 (日)

文芸同人誌「あるかいど」63号(大阪市)

【「アンソロジーできちゃった!」高原あふち】
 文学性のある作品ばかりが毎回満載の本誌だが、このほど同人30人による「アンソロジー」の出版にこぎつけて、第五回文学フリマ大阪(堺商工会議所)に出店したとある。私は、運営の善積健司氏とは東京のフリマで会っている。おおよそ、見ず知らずの同人誌をみて、通行人にそれを渡したらどう読むか、という視点と、同時に自ら書く立場からそれをどう受け取るかという姿勢での記録の意味で、作品紹介を続けていた。
  そのなかで、文学フリマで大塚英志氏と出会ったのである。今回のフリマ大阪ではアンソロジーは、12冊が売れ、「アルカイド」62号は6冊など23冊が売れた。木村誠子「ワルシャワの心臓」、住田真理子「ハイネさん」が完売したという。
 私の経験では、マーケットの日柄によって、売れ行きが異なり、一冊しか売れなかったこともある。かと思えば、見本誌まで買かわれてしまい、改版本を出すのに、印刷所に見本を出せなかったこともある。文学フリマで売るようなら、自分の紹介も必要ないかな、と思ったりする。同人誌の課題は、同人以外の人が読んだらどう読まれるか、ということだからだ。
【「越境」清水公介】
 28歳になった私が、これまでの人生であった幼少期、青春時代の記憶が広がる。文体に文学的表現力があるので、洒落た読み物になっている。筋のようなものはなく、とうぜん終わり形のような、終わりはない。自己肯定へのロマンが、自己嫌悪への意識を作りだすのだが、文章技術的にその対比のコンストラストが弱い。そのために文章力の巧さが生かされていないのではないか、という感じがした。こういう作風は、日本ではあまり多くないので、貴重だが、ここでは小さな流れが、大きく広がるための序章ではないのか。世界観の思想的な深みを高めることで、今後が期待できそう。
【「ふるさとの山河」高畠寛】
 大平洋戦争の敗戦前後の関西での少年の生活記である。1945年3月13日に大空襲があり、工場地帯であったため、徹底的に叩かれる。その時、小学三年生になる前の邦夫の行動で、敗戦後の一種皆貧乏という平等社会の子供の生活が描かれる。
 こどもだから、空襲でどれだけの人が犠牲になったか、などということは頭にない。クズ鉄拾いや、埋もれた物資を探し当てては、お小遣いにする。焼け跡こそが、少年たちの故郷へでもある。
 書きなれた自然な筆力で描くと、こんなに活き活きと少年期の世界が表現できるものかと畏敬の念を持った。
 作者は自分より年上のようだが、その記憶でも東京の京浜工場地帯で、似たような状況であった。屑鉄を売って銭湯に行く話を短編にした。それを、今は亡き秋山駿氏に読んでもらったことがあるが、「箸にも棒にもかからない、と言いたいが、それよりはちょっとましかな」と笑われたものだ。
 本作では、焼け跡から立ち直ろうとするなかで、ジェーン台風が襲来する。すべてが水につかったなかを邦夫が、手作りの筏で広い水に浸かった地平を眺める。なんと清々しく澄んだ光景なのだろう。
 閉塞感に包まれた現代では、破壊的災害の描写にもかかわらず、気持ちがすっきりと吹っ切れる感じがした。なるほど、そうでもあるな、このように書くべきだったのか、と感慨にひたることになった。
 発行所=〒545-0042大阪市阿倍野区丸山通2-4-10―203、高畠方。
 紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一

|

« 文芸同人誌「婦人文芸」98号(東京都) | トップページ | 文芸時評1月(東京新聞) 佐々木敦氏=デビュー作芥川賞2作品 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 文芸同人誌「婦人文芸」98号(東京都) | トップページ | 文芸時評1月(東京新聞) 佐々木敦氏=デビュー作芥川賞2作品 »