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2018年2月23日 (金)

文芸同人誌「孤帆」29号(川崎市)

【「そこに親知らずはありますか」市川奈津美】
 いまは男女のパートナーの同棲相手を、同居人と称する。短いが、パートナーとの離別を女性の立場から短く描いて、切れ味が抜群。出だしに、美知という女性が歯科医で、親知らずを抜くところを描く。暗喩として効果的で、自らの肉体を構成していた存在が、ある時点で不都合となり、抜き取る。不都合であったものだが、なくなったための喪失感が残る。
 美知のパートナーの男とは、恋愛で夢中になって同居してきたが、いつの間にか、それに慣れ、ときめきのない生活になっていた。彼女はそうした日常の連続に疑問をもっていたが、男は現状に満足している。彼女に別れ話を切り出され、男はその存在の重要性に気付くが、すでに時遅しである。彼女は抜歯の痛みが薄れるように、彼ことを意識しなくなっていくのだろう。
【「きみは冷たいひとだね」とうやまりょうこ】
 あかねは、誰からメールをもらうが、誰だかわからない。相手はこっちを知っている。それが誰かを、社内外の関係から想像する。当然それは、その相手と自分の関係の在り方を浮き彫りにし、意識化することになる。そのように読むと面白いが、作者はその効果を狙ったかどうか、わからない。他者からの視点をした自己像を浮き上がらせる。
【「指」草野みゆき】
 恋人の愛撫の心を象徴するように、その指に対する情念を語る。詩的ロマンのある散文詩。形式としての行替えだけの詩は、もう力を持たない時代になった。
【「It`s a Sexual  World‐3‐」塚田遼】
 今回は、7「男性 62歳 高等学校校長」の項と、8「女性 14歳 無職」のケースが、ドキュメンタリーのようにリアルに描かれている。それぞれの話はまとまっていて、独立して読める。現代人の社会的な立場とセックス生活の関係の病理を浮き彫りにしている。
発行所=川崎市中原区上平間290-6、とおやま方。
紹介者=「詩人回廊」北 一郎。

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