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2017年11月 7日 (火)

文芸同人誌「文芸中部」106号(東海市)

【「お願いですから」堀井清】
 主人公の自分は、80歳ぐらい。妻はすでに亡くなっており。結婚した娘が50歳になって、離婚し出戻ってきて同居。二人暮らしである。ここまで生きて、今後どうするという夢もない。なんとなく、無意識的にスーパーで万引きをしてしまったりしている。
 自分は、夫婦との健在で、息子夫婦と同じ敷地に住む境遇の友人を訪ねる。すると、孫が若い身の上で、もう結婚しようとしていることを気に掛けている。満ち足りた老後でも、それなりに悩みが生まれる。
 作者は、これまでも高齢者の置かれた立場をさまざまな生活環境に置いて、その精神を逐一描いてきた。しかも、同じようで、すこしずつ異なる設定のなかで、家族関係と社会的な存在の位置を普遍的に表現する。本作では、同居していた娘が、再婚でもするのか、家を出るという。そこで、80歳になっての一人暮らしが暗示される。高齢者視点小説の専門作家として貴重な存在であると思える。
【「カメだって反撃する」朝岡明美】
 「わたし」の高校時代からの友人の香澄が離婚したらしく、主人公の家に転がり込んで、何時の間にか居ついてしまう。おまけにカメまで飼って、わたしに面倒をみさせている。私には、大学時代からの男と交際していたが、彼がまた接近してくる。彼は香澄とも関わり合いがあった。わたしは、用心深い女とされているが、そこで彼の結婚申し込みを受けるかどうか考慮するところで、終わる。女性にの生活を描いて、その場、その場は読ませるが、わたしの人間的な在り方が良く見えなかった。
【「文学館のこと」三田村博史】
 愛知近代文学館建設促進委員会があって、前中部ペンクラブの前会長の横井幸雄氏が立ちあげて、三田村氏は理事にされたことからはじまる。その後機関誌「風の音」が創刊され、東海TV会長、春山行夫、城山三郎、杉浦明平たちが顧問になり、寄付などがあったが、同誌の勢いがなくなると、次第に文学館の建設から遠ざかっていく。その後の経過から、「愛知WEB文学館」のネットサイトを立ちあげたとある。収蔵物のデジタル化をしているという。
 杉浦明平宅には、戦後文学の雑誌10万冊、清水さん宅には、同人雑誌20万冊が、引き取り手がないままになっているという。
 読んで、さもあらんと、感じた。私も東京で、生前の浜賀知彦氏が、大田区の南部文学として活動したプロレタリア同人誌を2階に集めていたものだ
  その目録を作っていたのでそれをもらっていた。そのなかに安部公房や壷井栄の同人誌やGHQが接収漏れしたのではないかという物もあったようだ。保存のために、大田区の図書館に寄贈したいと申し出たが断られたという。その後、雑誌「現代思想2007年12月臨時増刊号 総特集=戦後民衆精神史」で東京南部文学(地元では下丸子文化として知られる)の特集で浜賀さんを取り上げた。その後、収集した同人誌は駒場の日本近代文学館で引き取ってくれることになりそうだと、生前の浜賀さんが言っていた。
 さらに、不二出版が浜賀コレクション「東京南部サークル雑誌集成・編集復刻版東京南部文学資料」として3巻を刊行。当時の同人誌活動を残している。価格は、6万円と高価だが、資料価値の面で、全国図書館に置くべきだと思う。
  さらに、浜賀の話では、大森に住み、久保田正文氏(雑誌「文学界」の同人誌評を行った)の亡き後の、書庫の本は、区内の図書館に寄贈しているという。そこで、その図書館に、寄贈本を見たいと確かめに行った。しかし、係員は、そんなものは知らないという。そのこで、寄贈されたものは、どこに保管するのか、ときいたら、「これですかね」と別室の戸棚の下段にあるのを見せてくれた。雑誌「文学界」の昔の古ぼけたバックナンバーと2,3の書籍ががあった。おそらくそれなのだろうと思った。整理されていず、始末に困ってそこにあるようだった。
 現在は、図書館は民間に委託しているので、おそらく処分されているのだろう。所詮そいうものなのだろう、と納得した。
発行所=〒477-0032愛知県東海市加木屋町泡池11-318、三田村方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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