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2017年11月15日 (水)

文芸同人誌「弦」102号(名古屋)

【「芸能史談―柳永二郎の名古屋地方の戦中慰問」下八十五】
 柳永二郎という俳優がいた。渋く重厚な風格のある脇役の重鎮という印象があった気がする。新派を主にした人物だとは、知らなかった。理知的な日誌の一部転載がある。戦時中に空襲による焼夷弾攻撃の合間に、舞台を続ける様子が、よくわかる。現在でも、北朝鮮のミサイル攻撃に備えてJアラートなどの対策をしている。いつの時代にも政府が、何を言おうとも、戦争に国民は対応しようがないことを実感させる。
【「指のあと」木戸順子】
 「還暦を1年遅れで祝う会」と名付けた高校のクラス会に出席し、昔の仲間と再会する。主人公の美穂は、夫を亡くし、夏子という娘が結婚相手を見つける。また、クラスメートで親しくしていた晋平との友達付き合いの時に、彼に強く抱きしめられ、身体に食い込んだ記憶を想い起こす。これらが40枚のなかに描かれている。ひとつひとつの出来事は巧みな文章力で、自然に読める。ただ、40枚にこれだけの内容を持ちこむので、味の薄さを否めない。
【「糠喜び」空田広志】】
 高齢者の生活感居を描いている。筆達者でいろいろな出来事を面白く読ませる。軽快な筆使いが絶妙。生活日誌を書きながら、筆が冴えてくるというのも、面白い現象である。
【「陰翳の男」山田實】
 陶磁器のデザインをする会社が、ベトナムに進出する。日本の陶器製造販売の細部がえがかれているので、面白い。それだけでなく殺虫剤を買いにスーパーに行くと、店内放送で、怪しい客がいるので、警備員は注意するようにという合図するような指示の声が流れる。男は、それは己のことかと、思い買い物の動きがぎこちなくなるところが意表をついて読ませる。
【エッセイ「枯木カリブ海に浮くーキューバ紀行」岡田雪雄】
 紀行文は、自己記録としては、意味が深いが、他人が読むと、それほど面白いとは思えないのだが、これはキューバの人々の生活ぶりを覗けるので、自分には興味深かった。キューバは、社会主義国であるが、米国の経済制裁でみんな貧乏。そこにオバマ前大統領が制裁を解除するとしたので、貧富の差がひらくのではないかと、心配されたが、トランプがそれを取り消して、やはりみんなで貧乏は変わらないようだ。そこから脱出したいと考えるのは当然だが、人間は格差が少なければそれだけ不幸感が減るということを示す社会のようだ。
【エッセイ「青年とカンボジアの未来」加納伸】
 これも紀行文の一種だが、短いが政治的な現状を反映した民衆の意識が表現されていて、興味を引く。
【「少年の死」フランシス和田】
 半島にある鄙びた漁村の少年と少女の一時期を描いて、終章で少年が首なし死体でみつかるという謎めいた出来事を語る。海辺の光景が、雰囲気良く調和的に描かれているのが、文芸的な味をもっていて、印象的である。
発行所=名古屋市守山区小幡中3丁目4-27、中村方。「弦の会」
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

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