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2017年9月 8日 (金)

文芸月評(読売新聞9月7日)時代は人間が成す石垣

 作家の橋本治さん(69)がベテランの存在感を発揮している。「新潮」に「草薙の剣――昭和篇へん」を発表し、「群像」では昨年7月号からの連載「九十九歳になった私」を完結させた。
  「草薙の剣――昭和篇」は、62歳から12歳までの10歳ずつ違う6人の日本人が、どのように生きてきたかを、父母の来歴を含めて同時並行的に描く。「平成篇」は10月号掲載予定で、昭和と平成とは何だったのかを長編として総体的に捉える試みのようだ。「九十九歳になった私」は、2046年、98歳の作家「橋本治」の日々をゆるゆるとつづる。東京大震災が発生し、科学の暴走のために恐竜が空を飛ぶようになった世の中をぼやきながら、作家は独り暮らしを続けて99歳になった。
  壇蜜さん(36)の「はんぶんのユウジと」(文学界)は、古本屋巡りが趣味の生気のない男と見合い結婚する女性の話だ。デートの食事で、ビーフシチューかハンバーグか迷う女性に、彼は見た目の汚さを構わず両方頼んで半分ずつにしようと語る。
 三輪太郎さん(55)の「その八重垣を」(群像)は、万葉時代の日本にあった歌垣の風習が残る中国・雲南の少数民族を調査する40歳前の研究者を描く。国境を越えて民族や文化が混淆こんこうする東アジアの姿にロマンを感じる男の夢を、実際に台湾から日本へ渡った一族から聞いた現実の話の重みが徹底的に打ち砕く。
 木村紅美くみさん(41)の「雪子さんの足音」(同)は、アパートの住民と交流したがる大家と、それが重荷になる若者の姿が淡く胸に残った。
  多和田葉子さん(57)の連載「地球にちりばめられて」(群像昨年12月号~)も完結した。故郷の「列島」が消滅し、人々は地球上に散らばる。ある女性は欧州で自分の作った言語を話して暮らし、ある男性は話せない状態に陥る。列島の言葉を学び、成りすます者も現れた。(文化部 待田晋哉)
 昨年2月に68歳で死去した作家、津島佑子さんの母校、白百合女子大でのシンポジウムの記録などを収めた井上隆史編『津島佑子の世界』(水声社)が出版された。
 《参照:【文芸月評】時代は人間が成す石垣:》

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