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2017年9月18日 (月)

文芸同人誌「海馬」第40号(兵庫県)

【「石を抱えたトキヨ」永田祐司】
 トキヨである「私」は、三人姉妹の末っ子で、母は教師、父はエンジニア。自分は保険の販売店に勤めている。家庭の話かと思えばそうでもなく、時空をこえた恐竜時代の夢を見たり、保険販売の客対応のコツを語ったり、人生の意義を考えたり、作者の思うところを自由に描く。宮崎アニメかと思うと「蟹工船」のプロレタリア文学を考え、ルソーと云う友達が登場すると、「告白」のルソーの人生を話題にする。キーワードは占い師が云った彼女の「子宮の中に骨がある」というもので、それがどういう意味か、考えながら読ませるところ。内面性の薄い表現のなかで、それが受け取り方の多様性をもたらしている。
【「うたかたの記」長谷川直子】】
 弁護士事務所に勤める女性弁護士の葉子が、50代になってボス弁護士の助手をしているが、仕事に倦怠を感じている。ある機会があって、菅野という男のバーの店の開店を支援することになる。葉子は菅野を美しい男だと感じる。菅野のバーは評判良く、流行る。が、ある日、菅野は失踪してしまう。その後、手紙が来て、彼が少年期に父親を海に突き落としていたことを告白する。
 全体にロマンチックなムード小説的であるが、菅野の少年期の事件が別件のように感じてしまう。話が漠然していても、前の分の美と愛の関係だけを絞って書いた方が文学性があるのではないか。
【「豊中の家」岡田勲」】
 豊中の家に住む女性の一人称で、生活の心境と家族の様子が、丁寧に描かれていて、なにかプルーストの「失われた時を求めて」の日本版の一部のような感じがある。終章で、その家の風景を見ることはないという言葉があり、時空を超えた話に読めた。これはこれで、一趣向のように思えたが、編集者のあとがきに、亡くなった娘さんのことらしい、とわかって、納得すると同時に、その文才に感銘を受けた。
【「愛のかたち」山下定雄】
 カンナという女性について、彼であるらしい「私」の独白体の語りで、小説的描写よりも、内面の心情や情念に重きを置いた表現。愛情のもつ曖昧な感覚を言葉にしてるようなものとして、長編の一部のようである。
 その他【「逃げ延びろ(二)」山際省、【エッセー「台湾ワールド」頴川雅麗】、【「手帳の余白ー編集後記に代えて」小坂忠弘】がある。
発行所=〒675-1116加古郡稲美町蛸草1400-6、山下方、「海馬文学会」。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

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