文芸時評9月・ 芥川賞と直木賞は合体はどうか=石原千秋氏
芥川賞を受賞した沼田真佑「影裏(えいり)」の「選評」がでた(文芸春秋)。選考委員会は喧嘩(けんか)だったと言うから読み応えがあるだろうと期待していたが、肩すかし。それぞれ自分の評価を書いただけだった。紙の上の喧嘩を見せて、盛り上げてほしかった。5月に書いたように「影裏」は新人賞としてはみごとだったが、芥川賞を受賞するとは思わなかった。だから、「美しくもおぞましい」(高樹のぶ子)と言われると褒めすぎだと思うし、「あの巨大な震災など、この小説のどこにも書かれていないと感じた」(宮本輝)と言われると、「では、どう書けば書いたことになるのか」と問い返したくなる。上手に省筆したという人がいれば(堀江敏幸)、書きすぎだという人がいる(村上龍)。ただし、これだけ評価の割れた作品を受賞作としたのは見識だった。
「文芸家協会ニュース」(7月号)の「読書推進運動」に関する座談会を読んだ。「読書は大切」という大前提を問い直す必要さえないかのように話が進むのには違和感を覚えた。たとえば、「読書をしない人は無教養に感じられる」とすれば、それは「読書をしてきた人から見て無教養に感じられるだけだ」という程度の意識はないのだろうか。文芸家協会は社会に開かれていないのではという疑念さえわいてくる。
《参照:産経=受賞作が「つまらない」 芥川賞と直木賞は合体させたらどうか 9月号 早稲田大学教授・石原千秋》
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