文芸月評7月(読売新聞7月6日付))死者を回想 永遠の生
「群像」昨年4月号から連載が完結。瀬戸内寂聴さん(95)の「いのち」。胆のうがんの手術を終えた<私>が退院し、京都・嵯峨野の自宅「寂庵」に戻る様子から書き起こされる。介護ベッドに寝つく生活を送るうち、鬼籍に入った同世代の作家の河野多惠子や大庭みな子のことなどを思い返してゆく。
荻野アンナさん(60)は、「文学界」2014年3月号の「海藻録」で始まり、7作目の「なよ竹」で完結した連作短編は、高齢の母を介護する<私>が大腸がんを病む話だ。闘病と介護を同時に体験し、母を亡くすまでを濃淡のある筆致で記した。
新潮新人賞を受けた鴻池留衣さん(30)の「ナイス・エイジ」(新潮)は、東日本大震災を2年前に予言したというインターネット上の人物をめぐる先鋭的な一編だ。
小山恵美子さん(42)の「図書室のオオトカゲ」(すばる)は、図書室で働く女性が主人公。自分にしか見えないオオトカゲが、利用者や蔵書を次々とのみ込んでゆく。静かな文章とトカゲの恐ろしい行動の落差に、足元が溶けてゆくような感覚を覚える。
栗田有起さん(45)の「毛婚」(群像)は、夫の髪が突然ふさふさに生えてきた出来事をきっかけに、妊娠中の妻が男女とは何かを見直す。流しの縫い子を描く2003年発表の『お縫い子テルミー』をはじめ初期作品からの持ち味だった奇想に、人間観の深みが加わった。(文化部 待田晋哉)
《元の記事を読む:文芸月評「死者を回想 永遠の生」待田晋哉》
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