大学文芸誌「文藝工房」第21号(平塚市)
この7月の先日まで、町田市で10日間開催した「文芸同人誌展示会」に展示されていた東海大学文学部の部誌である。レイアウトデザインが洒落ていたので、めくってみると、スマートな構成で、読む気にさせる。古典を交えた推奨紹介「デイボディ・ボッシュの洛書架にて」が前菜的な味わいで読書欲を誘う。また、詩作品のレイアウトが大変文学性に富んでいる。そして第15回創作コンペ発表があって、伊井直行、山城むつみ、堀啓子。三輪太郎、倉数茂の5選考委員による入選作品が掲載されている。
【「パーフェクト・ライフ」川村和徳】コンペで優秀作となった作品。小児ぜんそく持ちのぼくが、小学2年生以来の千歳というやや生意気な少女と知り合い、数少ない友達になり、その後の思春期を迎えて再会するという、喧嘩するほど仲が良い友情の話。少年時代の出来事を描いて文学性を出すのは難しいものがあるのだが、ここでは、まず自意識という強調することで、ただの回顧による作文と明瞭な1線を引いて成功している珍しい例に読めた。
余韻のある雰囲気の作風で、きわどいいところで、文学味をだしているのも希な成果。小学生のころの自らの心理の記憶をたどるというのは、ませていて創作性が強い。選評にも指摘があったが、その分、人物像の統一的表現に不足がある。だが、小児ぜんそくなどアレルギー症状のなかで生活する少年の精神は共感をもって読める。
その他、」佳作に「永遠の恋人」(北原慎也)、「山中渓」(山下海)、掲載作「美と嘔吐と修羅」(富所亮介)があり、その他、水準の安定した学生選考作品など力作が掲載されている。部員の文学的情熱が結集した充実した内容となっているので感心した。
発行所=〒259-1292平塚市北金目4-1-1、東海大学文学部文芸創作科。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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