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2017年6月14日 (水)

文芸同人誌「群系」38号(東京)

 本誌の36号が第6回富士正晴全国同人雑誌賞の大賞を授賞した。この賞は、徳島県三好市が郷土出身の作家・詩人の富士正晴を顕彰して同人雑誌に特化した賞で、地元で授賞式を行うことで、文学祭のような町おこし効果もあるようだ。特別賞に「水路」第20号、「文芸中部」第100号(名古屋)が授賞している。
 「群系」は文学史に残るような作家、作品の評論が主で、それが評価されたようだ。そのなかで小説もいくつか掲載されている。
【「青いアネモネからの風」荻野央】
 冒頭から「妻が交通事故で頭を強く打って意識不明となったその年の暮に、妹の亭主が自殺した。続けられたふたつの不幸によって今年の正月は、感傷が二重になってなまなましく、わたしにはきつかった」という説明があり、それを前提とした50代「私」の精神にかかわってアネモネの存在の様子が語られる。
 状況はかなり憂鬱な雰囲気にあるが、しかし、アネモネを観察観賞し、その美的な感覚を楽しむ「私」は、冷静な側面が半分あるようで、虚無的な精神から距離を置いている。散文詩的な感覚に、世俗的な出来事を組み合わせたもの。アネモネの存在する空気世界は、透明性をもった文章で光を帯びて明るい。詩的な一つの定型である憂愁のなかに、世界を悲観的なものとして受け取めない作者の向日性をもつ個性が良く出ている。
【「会長のファイル5『地縁・血縁』」小野友貴枝】
 市の公益社団法人・社会福祉協議会(市社協)の会長に就任した英田の組織改革の活動に向けた、地域の風土との調整の苦労を語る。地域の民間福祉団体が、各自治会を通じて会費が入っていることや、各種の利益還元もあり、会長はベテラン部下のすすめもあり、自治会の幹部に運営資料を届けるため、自宅訪問を行う。
 能率の良くない不合理なしきたりだが、実行してみるとそれなりに、風土と結びついた福祉活動の実体験として学ぶものを感じる。地域の民間福祉団体の組織活動の内部の実相が良く反映されて描かれている。実体験であるが故の曖昧な表現が、かえって想像力を働かせる余地を生み出し、それが多くの含みをもって、面白く読める。
【「大豆の戯言」野本恵理子】
 茅ヶ崎から三重県津市の別荘地に引っ越したこと、家族が3人であることなどが記さる。ある日、外出から帰ると煮込んでいた大豆が戯言を言ってるのが聞こえるたという。とりとめのない話だが、こうした断片の連続は、ツイッターの呟きを読むようで、今後の文学的手法の通り道を示すのかも知れないと思えた。
 メインの評論にも、いくつか興味をそそるものがある。いわゆる評論対象の作家について、読者がどれだけ知識があるかにかかる。データ―ベースの多い少ないに読者動向が左右される。その意味で、大衆小説やコミック、流行作家について評するのがてっとり早い。
 最近の「群系」には、そうした動向を掲載した編集がなされているようで、それが良い評価につながるのであろう。
発行所=〒136-0073江東区大島7-28-1-1336、永野方。「群系の会
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

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コメント

この度は拙作「青いアネモネからの風」を丁寧に読み解いていただき、好意あるご批評いただきましてお礼申し上げます。次作に向けてエネルギーをもらいました。ありがとうございました。荻野

投稿: 荻野央 | 2017年6月14日 (水) 08時52分

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