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2017年5月27日 (土)

文芸同人誌「日曜作家」第18号(大阪府)

【「功徳」椿山滋】
 29歳になる吉沢君恵は、清真会という宗教団体に入会して半年。素晴らしい人間に生まれてこなかったことで、両親をうらむようなうじうじとした性格だとある。少ない友達のひとり、高校生時代の弘子に誘われて入会した。この世で苦労しても功徳を積んで来世で幸せになろうという思想らしい。弘子は会費やお布施の経済的負担に耐えられず、脱会するという。やがて清真会の代表は、信者の金を遊びに使って姿をくらましてしまう。
 茫然とした君恵は、家に戻ってドラムスティックゲームに没頭する。その後、近所に似たような教義の宗教団体があることにの思い当り、そこに入会しようと決心する。
 君恵のもつ不可解なような性格を描くが、同時にそこにある部分は人間の業のようなもので、彼女を愚かささだけを読み取るわけにはいかない。短いなかで、内容の濃さをもつ。
【「今浦島の帰郷」高杉洋次郎】
 浩介は定年退職して10年。年齢相応の病を克服するなかで、舞鶴地方の郷里に帰った話を、きっかけに、折々に過去の思い出や出来事を語る。浩介は俳句、短歌をたしなむので、作品を挟みながら、いろいろある人生の過程を引き出す。技法はいいが、話は多彩で長く感じる。人生的なこだわりを超越した視点のためで、自己表現の部分が多くなっている。その分、作者の性格が文中からにじみ出ている良さはある。
【「てぶくろ」冬木煬子】
 千佐という家事に長けた女性がいて、夫の昌一と二人暮らし。「三人の子供が独立して出て行ったそういう年頃の夫婦である。」という。千佐はネット通販で、手術用の使うような手袋を買うが、これが大変便利で、特別な効用がある。これにこだわった日常生活が語られる。さらにことあるごとに―なんだかなあ―という詠嘆の言葉が出る。これで、かなり長い話が面白く読める。文字面もよく、軟らかなウイットを含んだ文芸作品である。だから、単純な自己表現より良いということにはならないが、より文学的であることは確か。
【「茨木市ドン底生活(一)」折口一大】
 タイトルが直接的なので、それだけで笑ってしまったが、読み物として、これが一番面白い。現代風俗小説である。失業してミュージシャンバンドを結成しようと、メンバー仲間を集めるところである。
【「サリーと共に」野上史郎】
 サリーという犬マニアの趣向の強い人間の話。行動をつなげれば、話がつながっているのだが、人間精神の論理のつながり部分を描くのを忘れたのか、抜けたところがある。読み終わって、えっと驚いた。これがマニア精神なのだろう。
【「過労死殻の逃走」紅月冴子】
 残業の多い仕事をしながら、小説を描くことの大変さを述べ、それでも「ガンバル」と一直線な文学する心を描く。私もそういう境遇の時期があった。そんなとき、映画「パピヨン」の脱走兵(スチーブ・マックイーン)が、ゴムボートで海原に出て「おれは、くたばらねえぞう」という場面を想ったり、安部公房の「けものたちは故郷をめざす」を読んで、弱った力を恢復させていたものだ。その経験から、良い芸術は人生の役に立つと考えるようになった。だが、そういう思想の自分は、本当は芸術に縁遠いのだろうな、と考えるようになった。
発行人=〒567-0064大阪府茨木市上野町21番9号、大原方「日曜作家」編集室。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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