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2017年4月12日 (水)

文芸同人誌「あるかいど」61号(大阪市)

【「スーパームーン」木村誠子】
 病気で亡くなった親族のことを、細かく書いてその出来事を発表している。いわゆる自己表現を重点にした生活記録であろう。書くということは、眼の前にあることを、距離をもって認識させるので、作者にとって有意義な作業である。さらに作者の内面にも読者がいて、使う言葉を選択する。読み手と書き手が立体的に同一化する。その事情が読みとれる。そのような視点で読んだためか、素朴な自己表現と、文学芸術の同居した作品と感じた。生活記録から文芸作品の高度化に向けて一つの問題提起を含んでいるのではないか。。
【「風よ 海よ 空よ」泉ふみお】
 沖縄・渡嘉敷の住民たちの純朴さと長閑な生活ぶりが描かれる。しかし、そんな生活の背景には、太平洋戦争のとき。最前線で米軍に立ち向かった日本軍の強制で、中里先生と知念先生の戦死、その他の住民たちが犠牲になったことを、自責の念をもって語る源爺の姿を浮き彫りにする。神国という幻想に操られた日本国民の犯罪的行為を告発する話に読める。沖縄語をわかりやすく、しかもリズム感良く使い回す文体が優れている。
【「杭を立てる人」住田真理子】
 百歳の老人が、現代でも太平洋戦争の灯火管制の記憶が残っていて、部屋を暗くすることを求める。息子が73歳ということで、戦争は昭和時代小説的な様相を帯びている。それを現代につなげる工夫がしてある。
 執筆にあたっての参考資料に「豊川海軍工廠の記録」(これから出版)、「最後の女学生 わたしたちの昭和」、「豊川海軍工廠」豊川工廠跡地保存をすすめる会・編著、「父の死」久米正雄 青空文庫――とある。
 作品に描かれた、御真影といういわゆる天皇を神格化した宗教カルト国家の様子。それに米軍の空襲の無差別攻撃の悲惨さは、迫力がある。現在、中東で行われている戦争による一般市民の被害に想像を馳せさせるものがある。
発行所=〒545-0042大阪市阿倍野区丸山通2-4-10-203、高畠方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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