文芸同人誌「R&W」第21号(愛知県)
【「クイーンズ・ハット」霧関忍】
幼稚園のママ友の交際の様子を描く。陰に陽に、女の世界の嫉妬心と虚栄のバトルをスリリングに表現する。人間が狭い世界で、熾烈な闘争をくりひろげる。愚かで恐ろしい女の執念の生み出す、事件を語り、人間悪の現代性を表現して読みごたえがある。
【「ある女の肖像」渡辺勝】
大企業のT電力会社の女性社員が、夜になると娼婦に変わる。そうした実在の事件をヒントに、作者のアレンジを楽しむような話。もうひとりの女性と、若い外国人との交情などの人物像も加えて、独自の物語にしている。実在の事件には、闇の謎の迫力があるが、物語となると起承転結が明快で、謎の魅力は失われる感じだ。
【「阿吽」松岡博】
東大寺の仁王像「阿吽」の彫刻を手分けして作った、運慶と快慶の作仏の過程の二人の心理を描く。歴史物として、知識が得られて面白い。
【「紙一重」藤田充伯】
長崎原爆投下のあと、米国従軍カメラマンであるジョー・オダネル氏が撮影した「焼き場に立つ少年」の死んだ赤子の弟を脊負い、歯をくいしばってりりしく、火葬をまつ姿の写真はあまりにも有名である。その映像から、野坂昭如「火垂の墓」、五木寛之の「蒼ざめた馬を見よ」の戦争の犠牲となった孤児たちにへ想いを馳せる。作者もまた、少年時代に、戦争の体験があり、「焼き場に立つ少年」と紙一重の運命であったことを語る。考えさせられる。
発行所=〒487-0033愛知県春日井市岩成台8-4-5-603―102、谷口(松蓉)方。
紹介者「詩人回廊」北一郎。
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