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2017年1月13日 (金)

文芸サークル誌「文芸多摩」第9号(町田市)

 本誌は「日本民主主義文学会・町田支部」の文芸サークル誌である。
【エッセイ「ヘルパーさんもいろいろ」木津和夫】
 高齢になって脊椎狭窄症でヘルパーに頼むことで生活を維持している。その折にやってくるヘルパーの人柄を観察して、そのサービスぶりから性格を読み取る文章。書くという表現を強く意識してさらに細部を描くと、良い文芸作品展開への入り口になりそうな作品。
【「四十七年前の決断」木原信義】
  1967年にY市のH国立大学の教育学部体育科に入学した牧野雄介を主人公にした、過去と現在の思想と生活を記したもの。話は、その年に入学した同級生のクラス会に参加したことから始まる。その当時は、全学連の70年代の安保闘争の末期の混乱情況が残っていた時期。
 作品では、国立H大学での中核派や革マル派の活動ぶりが描かれているので、その後の情況が記録として読める。主人公の牧野は、大学での共産党系の民青に同調することになる。その後の大学内の学生自治主権を巡る争いで、全共闘系を排除し学生自治の秩序を取り戻す。そのことから牧野は思想を共産党と共にする。
 何十年ぶりに母校の同窓会に出席すると、在学当時の学内自治活動のことは、話題にもされず、病気と親の介護などの生活状況的な世間話しか出ない。牧野は、そうした雰囲気に浮いた存在に感じ、失望をする。このような光景は、多くの団塊の世代で見られる現象であろう。
 そうして、これまでの町内会の役員や日本共産党後援会、憲法9条を守る会、退職教職員の会などの役員をしている自分の社会活動に自信を深め、さらに現代の政治状況の右傾化に抵抗する意思を固める。短いながらも記録として、社会的価値に重点がある。主人公が自分の人生に自信をもつ根拠には、ヘーゲルとマルクスによる、社会が段階を経て発展するという歴史観に従って、その発展段階に参加しているという思想がある。そこに、ニヒリズムやデストピアに対抗するところがあると見るべきであろう。
【「メイコの選択」原秋子】
 メイコという小学四年生の視点で、日常生活を描くもの。童話的な面白さをもつ。後半二部での、物の見方について、メイコが自分の考えを主張するところに関しては、ぎこちない。親が子供に説くようなことが、逆になっている。誰に読ましたいものなのか。思想の伝達法の検討をして欲しいところ。
【「転機」大川口好道】
 英治は戦争中の米軍の空襲爆撃を逃れて疎開していたが、高校を卒業して、絵画を学びながら働き場所を求めて、上京してきた。
 時代は、戦後間もなくの敗戦復興の時期であろう。高校時代の同級生のつてで、菓子メーカーに就職する。大企業製菓会社の下請けの作業の実態がリアルに描かれている。おそらく体験が反映されているのであろう。そこでのトラブルに巻き込まれてしまうが、なんとか会社を馘首させられずに済む。作者の真の意図は、判らないが、当時の労働力を商品とするなかでの、不自由さが描かれたプロレタリア文学としての訴求するところは、伝わってくる。
【「峰を乗り越えて」佐久健】
 定年退職した仲間たちで、ホノルルマラソンに毎年参加してきたが、今回は古希の仲間が2人もいるという。その様子を子細に描く。高齢なのにホノルルまで行ってマラソンをするという状況に驚かされる。「マラソンルート」と「人生の峠を越える」という現状への忠実なレポート。伝えたい意気込みが感じられる。目下の人生の主眼がマラソンをして元気でいることであるのはわかる。マラソンレポートから良き文芸にする方にも、精進をして欲しいものだ。
発行所=〒194-0015町田市金森東2-26-5-111、大川口方。日本民主主義文学会、東京・町田支部。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

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