読売新聞【文芸月評1月】近未来 緻密な想像力で
島田雅彦さん(55)の「黎明れいめい期の母」(新潮2月号~)は、衝撃的な近未来小説だ。
長嶋有さん(44)の「もう生まれたくない」(群像)も、震災後の世界に対する問題意識を感じた。
上田岳弘さん(37)の「塔と重力」(新潮)は、高校時代に阪神大震災に遭遇した男の話だ。勉強合宿と称して宿泊したホテルが倒壊し、生き埋めとなり、淡い思慕を抱いていた女性を後に亡くした彼の約20年後を描く。
滝口悠生さん(34)の作品はなぜいつも、胸を内側からかきむしりたくなるようなせつなさを催すのだろう。短編「街々、女たち」(同)は、離婚して一人で暮らす男のアパートに、見知らぬ若い女性が成り行きで泊まる話だ。深く交わらないからこそ、美しく残る夜の鈍い輝きがあった。
松田青子さん(37)の『おばちゃんたちのいるところ』(中央公論新社)は、生きづらさを抱えた現代の女性たちのもとに物ものの怪けが訪れる小品などを収めたキュートな短編集。同著は、昨年創刊された小さな文芸誌「アンデル」などから生まれた。(文化部 待田晋哉)
《参照:読売新聞2017年01月05日【文芸月評1月】近未来 緻密な想像力で》
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