文学同人誌「北方文学」74号(新潟県柏崎市)
本誌は文学同人誌という通称をしているのを、どこかで目にしたことがある。それが印象深いのは、内容が文学的な芸術性をもって粒ぞろいであることだ。その意味で、概要を<暮らしのノートITO>に掲載した。
文学同人誌と文芸同人誌のどこが違うかというと、文芸ーーの方は、文学性の強い作品と、ただの生活日誌的な作文や娯楽小説とが混在していることであろう。それはそれなりに、社会の世情を反映した親しみやすさをもたせる良さがある。しかも同人会員として、出版費用の負担をすることの支援になるわけである。
読書愛好家専門新聞などの文芸同人誌評などは、その膨大な作文の類を分け入って文学的な意義のある作品を選び出しているようだ。文学的な野心をもった同人誌でも、こうした作文や読み物との混在で、先鋭てきな文学部門が、埋没してしまうことが起きる可能性があるかも知れない。
【「蜜の味」新村苑子】
描かれた土地は明確にしないが、土着性の強い風俗を土台にそれが「昭和46年11月中旬のこと」とまず明確にする。飲んだくれの夫と、障害をもつ長男元雄と暮らす主婦キクエの生活の貧困生活を描く。その中で、家出をした次男の光雄が、東京で身元不明で亡くなった男とド同一人ではないか、と警察から告げられる。どうのようにして東京に確かめに行く金を工面するのか。さまざまな問題を抱えるキクエの疲労した神経。そこで観る白日夢を描く。
重みと粘りのある文体は力感に溢れ、作中で緊張感を生むような語りの構成が、物語の興味を生む手法として成功している。これが長篇小説の一部ではないかと、思わせるところもある。
作者は「新潟水俣病短編小説集Ⅰ、Ⅱ」(玄文社)を刊行しており、「律子の舟ー新潟水俣病短編小説Ⅰ」で2014年の第17回日本自費出版文化賞各部門賞・大賞の小説部門賞を受賞のほか、新潟県の文学賞なども受賞しているようだ。
発行所=〒945-0076新潟県柏崎市小倉町13-14、玄文社。
紹介者「詩人回廊」北 一郎。
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