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2016年12月14日 (水)

文芸同人誌「アピ」第7号(茨城県笠間市)

【「鬼草紙」西田信博】
 仏教説話にある人間世界の彼方、天界の入り口にある須弥山を舞台に罪と罰をめぐって、人間と鬼が天界と人間界の双方をかけめぐる話。最近同人誌で読んだ作品の中で、題材と文体の工夫に優れて実に面白い。「今は、昔のことである。仁和寺当たりの僧に、如真と云うは、いわゆる悪僧だった」という出だし文のおおらかさに示されるように、古文のリズムと話のスケールの大きさで、気持ち良く読み進められる。人間の善悪と仏教思想の啓蒙にも意義がある異色作である。
【「アクリルたわし」田中修】
 東電福島第一原発から5年。作者の義兄は、相馬市の原発から北西約10キロ離れた場所にある。3.11の大震災には、新築間もなかった家が山沿いにあったため、屋根瓦がこわれた以外に大きな被害はなかったという。しかし、原発事故のため自治体からの避難指示がないものの、親戚の家を転々として避難生活を送った。福島市内の親戚の家を避難に場所に申請し、食料品の配給を受けていた。義兄の母は、当時93歳でつらい避難生活を余儀なくされた。
 作者の家は、茨木県笠間にあるが、避難場所の団地生活からの気分転換に二カ月に1回こちらに来て、気分転換をはかっていたという。そんな母が、アクリルたわしを手作りしたところ、関係先々で評判になったという話である。原発が事故を起こすと、さまざまな不幸を人々にもたらす、その多様性を感じさせる。
 ここで、自分が注目したのは、次のとことである。「母には一男四女がいた。私の妻が四女である。次女と三女は、大震災の数年間前、ほぼ同じ頃に治療困難な癌と診断され、同じ年に亡くなったのである。次女は63歳、三女は57歳の若さであった。」という事実である。
 じつは、事故を起こさなくても原発は常時トリチウムという放射線を放出している。身体に害があるが、無害のところまで薄めることで、海などに放出されている。しかし、日本各地のほか、ドイツの原発所在地では、事故がないにもかかわらず癌患者が多く出ていることを、住民たちが肌感覚で知っている。現在、ロシアでも高額の予算を組んで原発からのトリチウム除去装置を開発、日本に売り込みをかけているというニュースもある。
 福島県に被災者支援、福島県に頻繁に通っていた家族やボランテアの幾人かが、癌と診断されたという話も都市伝説的に流れている。いずれにしても、精神的に福島の影響かと疑惑に悩まされるような要因は、なくしたいものだ。
 発行所=〒309-1722茨城県笠間市平町1884-190、田中方「文学を愛する会」
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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コメント

アピ7号を取り上げて戴きありがとうございます。義兄の住んでいた南相馬市の地区は避難指示解除となりましたが戻った方は8%にも満たないとのことです。原発震災で壊れたコミュニテイが元に戻ることは不可能な事態となっています。

投稿: 田中 修 | 2016年12月16日 (金) 10時42分

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