同人誌評「図書新聞」(2016年11月26日)評者・越田秀男氏
《対象作品》 「カノン」右田洋一郎(「九州文学」35号)/ 「私は ずっと昔から こうよ」柊木董馬(「澪」8号)/
「もしかして」田原明子(「海峡派」137号)/「学生たちの牧歌」中村桂子「朝」36号)「吉本隆明の『全南島論』」特集」(「脈」90号)/「人間―人類」論における生物学序説⑧」月村敏行(「VIKING」789号)/「馬の記憶」伊藤恭子(「渤海」72号)。
〈自分探し〉という言葉は誰が言い出したのか。旅行代理店の指矩か。芥川賞受賞作「コンビニ人間」(村田沙耶香)は、〈自分隠し〉の物語。世の常識から極端に乖離した少女は、他人と関わることを避けて生きてきたが、チョットしたキッカケで“コンビニ店員”に仮装して、世間と繋がることができた。しかし時を経てこの仮装すら奇異の目で見られていることが分かりだす。しかも彼女の仮装は、いつの間にか生身の表皮に化し、コンビニ動物に変身していた。カフカの「変身」では、ゴキブリとなり掃き捨てられてしまったが。彼女の場合、生活と心の寄処としていたコンビニが職人技のごとく血肉化したとも言える。この寄処を持てない、あるいは奪われた人々は、生活と心の難民となり巷を亡霊のごとく彷徨う。向き合うはスマホばかり。
《同人誌評「図書新聞」(2016年11月26日)評者・越田秀男》
| 固定リンク
コメント