文芸同人誌「星座盤」第10号(岡山市)
【「透明な水を湛える」浅岡千昌】
小さな島にある祖先の墓を、血縁の誰かが守らねばならなくなった。親族は、ほとんど島の外に出ていってしまう事態になった。そこで、作家として暮らしを立てている縁者の私が、島に住んで墓守りをすることになった。独身で毎日散歩と墓守だけの生活。主人公が現在書こうとしている小説は、三崎という自死した男の物語だ。しかし、幾度も編集者からだめだしを受けてしまっている。
ここでは、孤独に暮らす私に風景はどのように見えるか、何を思うかが述べられている。それだけで充分読み応えがある。短いせいもあるが、はじめから話の方向性が見える明解性に、読む意欲を引き出された。何事も起きていないが、主人公の情念の表現で十分物語が成立している。
【「十年アラーム」三上弥栄】
オフィスレディの恋愛。それととパワハラから転職する話。転職後の会社で成功し、社員募集の面接員となる。すると、散々に主人公パワハラをした上司がリストラされたのか、募集に応じて来たというオチがある。生活日誌的な作風であるにも関わらず、現在問題となっている過重労働に絡むようなオフィス事情を素材にしているのが、時代の流れを感じさせる。
【「真珠」濱本愛美】
医療事務員で30歳女性の私は、彼氏が本業がありながら副業のセールス活動をするのに付き合あわさせられる。また顎の痛みの原因がわからず、医師に唾液腺に結石ができたことを知らされる。ひょんなことで、その結石がとれるところで、終わる。その間の彼氏との関係が語られるが、この世代の風俗がよくわかるのが読みどころになっている。各世代間でライフスタイルが異なる時代には、これも一つの世代の表現として読める。
【「かろうと」水無月うらら】
人生の当面の目標として、まず独身生活を通す主義から自らのお墓をつくることにしている30代の女性の物語。面白いキャラクターを考えるものだ。若い時期から死のことを考えるということで、彼氏から求婚される状況でも、読んでいて妙な意味合いをもって読める。また、この変な趣味の女性が不自然でなく感じさせるところが表現力の妙であろう。
発行所=〒701-1464岡山市北区下足守1899-6、横田方。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。
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