文芸同人誌「婦人文芸」第97号(横浜市)
【「三國さんのこと」西山州見子】
話題性の面白さとしては、これが第一であろう。作者は、約30年前の昭和59年、自宅を鉄筋三階建てのアパートにして、そこの大家をしながら住んだ。部屋の賃貸にはペット「可」にした。
すると、管理会社から、俳優の三國連太郎と夫人と犬とで住みたいと連絡があったのだという。三國連太郎60歳代のころ。世田谷に自宅があるが、地方ロケの時に、一軒家を留守にするのが不安なので、そこを他人に貸しておいて、しばらくの間アパートを借りたい、という話であった。愛犬と暮らせるアパートがなくて、困っている事情があった。
しばらくならよいであろうと、承諾した。三國一家が挨拶にきた。連太郎は大柄でがっしりした身体をしていた。犬の名は小太郎で、夫人は連太郎より25歳年下と教えられる。
居をかまえた三國のこの時期の出演した映画作品は「マルサの女」、「利休」以下、多くあったという。「マルサの女」の教祖役の時は、ちょっと怖い雰囲気で、「利休」のときは穏やかな人柄の雰囲気であったという。
越してきて間もなく「釣りバカ日誌」が始まった。ロケに使った魚のお裾わけが幾度もあったこと。夫人が方角よいというように、その間、「利休」「息子」で日本アカデミー賞主演男優賞を2度も受賞したという。アパートは、知る人ぞ知るで、釣りバカの「スーさんの家」と噂された話など、今は亡き名優のエピソードで興味尽きない。
【「福島弘子さんのメガネ」志津谷元子】
同人仲間であった福島弘子さんが亡くなって、彼女との交際の思い出を語る。独身を通し、小説への情熱を絶やさないその人柄と、作者の思いが伝わる姿見の良い鎮魂の章に読めた。
【「野尻湖の家」菅原治子】
ある主の余裕がある家族が、野尻湖畔に別荘を持つまでの家族の過程が描かれている。ある意味で、かつての家族がもとまって、一体感を維持していた時代への郷愁の物語。
そのなかで、思春期の豊という長男の家族的なまとまりに反抗し、個人としての自己主張をすることに、母やが神経を尖らすとことが、本題となっているようだ。
その他、エッセイや掌編があるが、それぞれ文章に習熟した書き手が多く、それぞれ来てきた時代のさりげない日常を題材にして、感慨を与えるものが多い。
発行所=220-0055横浜市西区浜松町6-13-402、舟田方、婦人文芸の会。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。
| 固定リンク
コメント