「中部ペンクラブ文学賞(第29回)「犬が鳴く」(阿部千絵)の印象
何が文学芸術で、何が通俗小説なのか、最近は文芸雑誌を読んでもはっきりした区分けがしにくくなった。だいたいそんな区分けができるのかどうかさえ疑問である。そのなかで、短編なが文学芸術であると、されているのが、 「中部ペンクラブ文学賞」(第29回)受賞作「犬が鳴く」(阿部千絵)である。そのの選評の概要ついて、《文学コミュニティとしての「中部ペンクラブ」(下) 》に記した。
先に、東京新聞の文芸時評で、佐々木敦氏が、純文学においてもそれが物語である以上は、終わりを書かねばならない、それが作品の完成度に問題を感じさせると、述べていた。それに呼応するというのも後先でへんだが、「犬が鳴く」には、終わりがない。主人公のおかしな立場は、そのまっま継続されて、途切れている。
その意味では、受賞作は前衛的ではある。かつてというか、今でもというか、J・ジョイスやカフカは前衛的な作風として知られているが、それらもとくに終わりはない。特に、カフカは主人公のおかしな状況が、かわることはない。「犬が鳴く」という作品は、現代人が状況がおかしいという違和感のある場合でも、なんとなく無意識的に、それに惰性のように流されていく人間の、ある一面を鋭く突いている。いわゆるカフカ風の手法は、形を変えてすでに前衛的でなくなっているのかも知れない、と思わせるところがある。
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