« 「法政文芸」第12号(2016)2作品に読む時代精神 | トップページ | 作家・田丸雅智の小説をレシート掲載。三省堂書店が提供8/21まで »

2016年8月16日 (火)

【文芸月評(読売新聞)8月】農業で迫る人間の営み

高村薫さん(63)が、「新潮」2013年10月号から始めた連載小説「土の記」を完結させた。社会派ミステリーから出発し、『新リア王』で政治、『太陽を曳ひく馬』で宗教などと向き合った著者が、新作のテーマとしたのは、自然と農業だった。2010年の初夏、紀伊半島の宇陀うだ山地を舞台に物語は始まる。地区の棚田を耕す72歳の伊佐夫は、労力を軽くするため、苗の一株ごとの間を広く植える「疎植栽培」に取り組み始めた。苗が育ち、穂が出て、稲を刈る。稲の生育と農作業の様子が、細かく書き込まれる。
高橋弘希さん(36)の「スイミングスクール」(新潮)は、両親が幼いときに離婚した女性が主人公だ。愛犬の死、娘のスイミングスクール通い、神社の縁日、母の死……。淋さみしげな影を抱えながら、郊外の街で心優しい夫と9歳の娘を育てる姿を静かにつづる。
 戦争を扱ったデビュー作「指の骨」などから題材が変わったようでいて、微細な出来事をピンセットでつまむようにして物語の上に並べる精妙な手つきは変わらない。
破綻だらけの真っすぐさが愛いとおしいのは、中山咲さん(27)の「血と肉」(文芸秋号)だ。一人で出産を決意した妊婦が、海辺のラブホテルに住み込んで働き始める。老いた女性経営者はやがて、主人公に教会へ来るよう誘ってきた。性の欲望、宗教への関心、暴力の衝動。それら全てを長編に荒々しくぶつけた。
 一昨年の群像新人賞受賞者の横山悠太さん(34)は、短編「アジアの純真」(群像)を発表した。中国に留学した日本人とイスラム系の学生の短い交流を描き、多様な人間が住む世界の表面をなでた感触が残る。木村友祐さん(45)の長編「野良ビトたちの燃え上がる肖像」(新潮)は、格差社会が進む中、不安定な生活を送る側の人間に寄り添おうとする作家の決意がにじむ
参照:【文芸月評】農業で迫る人間の営み

|

« 「法政文芸」第12号(2016)2作品に読む時代精神 | トップページ | 作家・田丸雅智の小説をレシート掲載。三省堂書店が提供8/21まで »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 「法政文芸」第12号(2016)2作品に読む時代精神 | トップページ | 作家・田丸雅智の小説をレシート掲載。三省堂書店が提供8/21まで »