« 文芸同人誌「文芸中部」第102号(東海市) | トップページ | 文芸同人誌「相模文芸」第32号(相模原市) »

2016年7月 6日 (水)

文芸同人誌「海」(第二期)第16号(大宰府市)

【「星と花 R共和国奇譚」井本元義】
 作品の必要条件とも思える、憂鬱状態の「私」が、多数の部族で構成された山岳民族国家R共和国から招待される。80年に一度のベルセウス座の大流星群が見られるという。そこで、「私」は、その招待に応じて、訪問する物語。設立して70年というこの国は、伝統と近代科学を両立させたようなところがある。そこで、書かれるのが、食虫植物の存在と、しきたりとしての鳥葬の様子である。
 フランスの象徴派、ボードレールの視点と、なんとなく佐藤春夫、福永武彦の作品世界を思わせる雰囲気で、鳥葬の細部にわたる説明や、食虫植物存在感が文芸的に味わえる密度の濃い作品である。文学的表現の高度な技術の見本のような世界を展開される。読ませられながらも、その表現力に舌を巻くとはこのことであろう。読んでよかったと思わせる。食虫植物に食べられる「私」が活きている。やや、ディレッタンチムの気配があるが、上質な純文学の世界を楽しめた。
【「機縁因縁」中野薫】
 保険金殺人事件の犯罪関係者と警察官の活動と犯人が死刑になるまでを描いた犯罪小説。新聞による事件報道をヒントに、小説化したものだという。ここでは、警察官も人間、犯人も人間という視点を崩さず、警察官の職場での立場を冷静に描き、同時に犯人とその周辺の人物を、説得力をもって描き切っていることに長所がある。作者の洞察力と筆力が一致して、大人の読み物として優れている。これも上質な社会派的中間娯楽小説に読める。
 発行所=〒818-0101大宰府市観世音寺1-15-33、(松本方)「海編集委員会」
紹介者=「詩人回廊」北 一郎

|

« 文芸同人誌「文芸中部」第102号(東海市) | トップページ | 文芸同人誌「相模文芸」第32号(相模原市) »

コメント

今号の海の「二つのポイントになる作品」でした。御紹介いただき、いつもありがとうございます。感謝申し上げます。

投稿: 有森 | 2016年7月 7日 (木) 17時19分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 文芸同人誌「文芸中部」第102号(東海市) | トップページ | 文芸同人誌「相模文芸」第32号(相模原市) »