文芸月評6月(読売新聞6月9日)在日作品に刻まれた声紋
今月発表された群像新人文学賞の受賞作、崔実チェシルさん(30)の「ジニのパズル」は、選考委員5人の満場一致で決まった。辻原登さんは「素晴しい才能がドラゴンのように出現した!」と絶賛している。読み手の心を大きく開くような作品だ。
米・オレゴン州の田舎の高校を退学しかけている在日韓国人のジニの回想によって物語は始まる。日本の私立小学校を卒業した彼女は1998年4月、東京・十条にある朝鮮学校の中等部に入学した。
原則として朝鮮語を使う学校で、言葉の苦手なジニがいるときだけ日本語で授業が行われる状況が続く。戸惑いながらも友人ができ、バレー部に入った彼女の日々を、北朝鮮のミサイル発射実験が襲う。少女の中に、教室にある金日成と金正日の肖像画への違和感が耐え難く強まる――。
在日作家の小説に、過剰な社会性や政治性を読み取りたくはない。だが、本作を学校になじめない中学生の揺れる心情を描く小説とだけ捉えることもできない。ミサイル騒ぎの際、嫌がらせを恐れたジニの学校では生徒がチマ・チョゴリをやめて体操服で登校する。国際関係上の不満を子供に向ける一部の日本人の卑劣さも映し出される。
≪【文芸月評】民族の葛藤 響く歌声》
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