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2016年6月24日 (金)

文芸同人誌「柘榴」第17号(広島市)

【「金魚」木戸博子】
 妻と10歳の男の子の過程をもつ高野の家庭で、家の前にポリバケツに入った金魚が置いてあったことから、息子の希望で飼うことになった。そこで金魚の飼育が、なかなか手間がかかることを、専門店の店員の蘊蓄で知らされる。
 その高野には、比呂美という浮気相手がいる。この高野と愛人の不安定な関係と、ひ弱な出目金のイメージの連想が良くできている。妙にエロチックで、人間的な関係の薄いことの危うさと、性的関係における男女間の情念のはかなさを、巧みに結び付けて読ませる。
 そうした感覚の透明感がユニークで、けなす人はいないでしょう。とはいっても、家庭持ちとなった高野の鬱屈した感情は、外面的な表現で迫るにとどまっている。それでも優れているのではあるが、本質は高野と妻の美和の夫婦間の倦怠にあるのではないか。そこに迫るのには、もうひと押しの発想が足りないような気がする。文芸雑誌でも、晦渋さを避けて、深追いせずに中間小説的なわかり良さを追う作品が増えた。それは商業的な事情の配慮と思われるが、同人雑誌であるなら、そうした傾向に同調することが必要ないのでは、と考えさせる。
【「サブミナル湾流Ⅲ」篠田健二】
 本編は、軽みのある文体で、世界にただひとり、作者だけがもつ自己主張の強い作風。これを貫こうと果敢に挑戦し、苦心するところが、大変面白い。短編連作の終回である。散文精神による観念追求の文体は、読んでいて気持ち良い。話はリゾートビーチと漁村が同居するような地域での、過去の事件を回想し意味づけをするのである、その書きまわしぶりが、なるほどと感心させたり、そうなのかな? と疑義をもたせたりで、読者との会話ができる。
 このなかで、ミステリーとノベルの違いの構造論が展開されるが、これは純粋理論化に傾いて、小説的なものから解離しているように思う。折角、過去の事件らしき現象があるのであるから、これに結び付けて論を展開しないと、本質的に俗的な視線で、世界を語る小説からはみ出してしまうような印象を受けた。とにかく、書く姿勢が楽しめる。
発行所=〒739-1742広島市安佐北区亀崎2-16-7、「柘榴」編集室。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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コメント

いつも読み込んでいただき、ありがとうございます。明日の合評会にプリントアウトして持っていきます。(木戸博子)

投稿: 木戸博子 | 2016年7月 9日 (土) 22時22分

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