著者メッセージ: 皆川博子さん 『クロコダイル路地』
フランス革命といえば、貴族の横暴、飢餓に苦しみついに立ち上がる庶民、クライマックスはバスティーユ襲撃という構図が定番ですが、『クロコダイル路地』は、その後に続く革命の〈負〉の側面に焦点をあわせました。
〈ナントの虐殺〉と〈ヴァンデ戦争〉です。
自由、平等の名のもとに、惨憺たる虐殺が公然と行われ、一方を邪悪、他方を正義と、黒白二色に分断できない混沌とした時代でした。大革命によってフランスの経済は一時停滞し、その分、イギリスが利を得ます。当時のイギリスもまた、貧富の差は甚だしく、決して望ましい世相ではありません。
世相がどうであろうと、その時代に生まれ合わせた者はその中で生きるほかはない。
時代は悲惨ですが、物語の舞台としては魅力があります。十八世紀末のフランス・ナントから十九世紀初頭のイギリス・ロンドンへ。楽しんで書き ました。楽しく読んでいただけますことを。 (皆川博子)(講談社『BOOK倶楽部メール』 2016年5月1日号)
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