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2016年5月 3日 (火)

総合文芸誌「岩漿」第24号(伊東市)

【小説「老詩人と黒いゴム長靴」偲憂一】
 真鶴半島に前畑春聖という詩人が済んでいて、詩誌「詩海」を主催している。その詩人を高校生の頃に訪ねる。真鶴半島は、自分も好きな場所で、中川一政の美術館や、原生林のシダの棲息を見て回っている。尻掛けという場所も、その付近には固有の貝類がいて学問的に貴重らしい。とにかくあの崖の中途に住まいをもつ詩人が存在するという設定が面白く洒落ている。史実に合わせたフィクションにしても、詩人の師弟関係のような人情の交流が描かれており、文学的な散文として楽しめる。
 このような関係は宗教関係など、求道的な側面でも見られる関係で、その面でも道を追求してゆくひとつの典型として、普遍化した面を持たせている。それに風土性が感じられるので、一番印象に残った。
【「シベリアに抑留された伊豆の作家」桜井祥行」
 高杉一郎(1908-2008)と石原吉郎(1915-77)が共に、第2次世界大戦の時にソ連のシベリア抑留体験者であることから、その体験の表現法の異なる点を指摘、評している。両文学者の特性を示す、作品引用が適切で、なるほどと学ばせてもらった。
【「夏つばき」椎葉乙虫】
 会社の経営を巡って、人生を浮の沈みを主人公の幸田の運命を描く。物語性が強く、ストーリー展開に合わせて、文章にスピード感があるので、読ませられる。
【「現姥捨(いまうばすて)」馬場駿】
 これは高齢社会になった老人の社会的な棄民現象を、現代的な手法で物語化したもので、骨の太さがある。ただ、物語の進行の優先で、文章が粗いのは、「夏つばき」の作者と同一で、同じ人が筆名を変えて書いたものと、思えるような相似性がある。娯楽小説的評価では、後者の方に内容が濃い。
連絡先=〒414-0031伊東市湯田町7-12、リバーサイドヒグチ306、木内方。岩漿文学会編集部。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

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