「実際に体験した者でなければ話すことができないもの」について
小説におけるリアリズム手法を超える表現に、裁判における自白の信用による判決理由がある。栃木県で起きた少女殺害事件は、8日のTBSTVニュースでは、「判決は自白の内容について、「被害者の遺体や、遺体が遺棄された現場の状況という犯行の根幹部分は自白と矛盾しない。特に被害者を刺したときの状況などは、想像に基づくものとしては特異とも言える内容が含まれ、実際に体験した者でなければ話すことができないものだ」と指摘しましたと報道した。
「実際に体験した者でなければ話すことができないもの」となると、作家の想像力をだけでは、真迫性のある表現は不可能となり、表現の限界を示すものと受け取れる。これについては、《元信者菊地直子被告の裁判を素材にした新型評論を書く=伊藤昭一》で、この判決と対照的な事例を挙げた。
他の報道機関では、自白のなかに「刃物で刺して、血の鉄さびのような匂いを感じた……」というところが、「実際に体験した者でなければ話すことができないもの」のひとつというのもあった。しかし、鮮血ですぐ鉄分の匂いがするとは思えず、また、異常事態のなかで、冷静な犯人の観察力に違和感を覚える。これは殺人現場を後から検証することが多い警察官の体験を語っているように聞こえるのだ。犯人かどうかはわからないが、自白のここにはもっともらしい警察による作文の匂いを感じる。
なお、この事件の概要は下記の新聞記事にある。
平成17年に起きた栃木県今市市(現日光市)の小1女児殺害事件で、殺人罪に問われた勝又拓哉被告(33)の裁判員裁判の判決公判が4月8日、宇都宮地裁で開かれた。松原里美裁判長は求刑通り無期懲役を言い渡した。被告は商標法違反罪などの区分審理でも有罪の部分判決を受けており、これを踏まえた量刑。
被告は捜査段階で殺害を自白したが、公判では無罪を主張。直接証拠がない中、捜査段階の自白の信用性や状況証拠の評価が争点だった。勝又被告は17年12月2日午前4時ごろ、茨城県常陸大宮市内の林道で、吉田有希ちゃん=当時(7)=の胸をナイフで多数回刺し、失血死させたとして起訴された。
検察側は「自白は具体的で迫真性がある」と主張。自宅方面と遺体発見現場方面を往復した車の走行記録や、遺体に付着した猫の毛の鑑定結果が被告の当時の飼い猫と矛盾しないことなどから「被告と犯人を結びつける客観的事実が多数存在する」としていた。
弁護側は「被告が犯人であることを示す証拠は、自白を除くとないに等しい」とし、殺害時刻など自白の重要な部分が客観的事実と矛盾すると主張。また、長時間の取り調べや警察官に「刑が軽くなる」と利益誘導された末の自白には任意性がないと争い、公判では取り調べの録音・録画が7時間超再生されたが、地裁は先月18日、自白調書を証拠採用していた。(産経新聞2016.4.8 付け) .
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