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2016年4月17日 (日)

著者メッセージ: 川上弘美さん 『大きな鳥にさらわれないよう』

 小学生のころ、未来人の絵を描くのが好きでした。姿は、今の人間とはほとんど違わないのですが、ただ一つ違っているのは、目がもう一つよけいに、三つあること。自分では「この未来人はかっこいい」とひそかに自慢に思っていたのですが、絵を見た大人は、誰もが首をかしげるばかりだった記憶があります。
 今思えば、あのころ未来人の絵を描くのを好んだのは、巷にあふれていた、いわゆる「未来の素敵な世界」の予想に、なんとはなしな違和感をいだいていたからだったような気がします。宇宙旅行。人間につくしてくれるロボッ
 ト。世界を網羅する完璧な交通網――。あまのじゃくだった私は、おさなごころにも、「それって、ほんとうに、素敵なのかなあ」と首をかしげ、「素敵な未来世界」には出てきそうにない三つ目の人間を描いたにちがいあ りません。
 ずっと、現代の日常のこと、今ここのことを、小説に書いてきました。けれど、年をくってきて子供がえりしたのでしょうか、このごろしきりに、今ここにあるもの以外のことを書いてみたいと思うようになってきたのです。
 そうやって書いたのが、この小説、わたしたちの未来の物語です。お手に取ってくだされば、こんなに嬉しいことはありません(目が三つある未来人も、ちゃんと出てきます)。(川上弘美)
(講談社『BOOK倶楽部メール』 2016年4月15日号より)

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