総合文芸同人誌「岩漿」(伊東市)
総合文芸同人誌「岩漿」は、静岡県伊東市を本拠地に「岩漿文学会」が平成9年に発足。平成27年まで継続して「岩漿」を発行。本号で二十周年記念号になる。200頁の迫力がある。力作揃いで読み応えがあった。
作品は、「夏つばき」 椎葉乙虫、「現姥捨(いまうばすて)」馬場駿、評論「シベリアに抑留された伊豆の作家」 桜井祥行などのほか、エッセイや詩作品がある。
巻末に「今号の作家と作品」と題した解説紹介があるので抜粋する。二ページ随筆作品にも言及している。
【「老いの悲しみ」日吉睦子】
老いはいつか人から様々なものを奪っていき、その過程で人は悲しみに出会う。そうした心情をとてもリアルに表現しているー 等々と各作品を三四行で確実に掌握していて感心した。
【「現姥捨」馬場駿】は胸に迫る小説だがその解説は次のようになっている。
-明日にも起こり得るこの不幸な世界にあって、そこにのたうつ命の物語。読み終えた後、誰もがきっと命の意味について考えるだろうー。
この頁以外にも同人追悼頁や巻頭詩や映画評等々の一頁を随所に据えてある。詩歌も多く幅広い文芸同人誌だが編集の上手さで取り付きやすいのも感心した。
【「爬虫類と暮らす」桂川ほたる】も面白い。解説文はこうなっている。
-小さな動物へ寄せる想い、そのちょっぴり茶目っ気を含んだ優しい雰囲気が、読んでいて快いー
編集上のユーモア感覚も優れている。シーラカンスって、美味いのかね?で終わる作品の次に珍魚の調理を書いた作品を続けていて笑いながら読み耽った。
ちなみに「現姥捨」は作中の悲惨な老夫婦の心中場面が胸に迫り強く残っている。
粗筋は、出版社員が老人悲劇を取材する話だ。老人は社会の弊害とする姿勢なのだ。
きわどい記事に同情せず書け売り上げ至上だと強いられる記者を狂言回しにしている。
挿話の老人心中に動揺した。70才の妻と年下の夫。痴呆の妻と山で死ぬ話しだ。
薬を飲み妻の乳房を吸いながら眠りに落ちる。で、夫は生き返るのだ。
この挿話も全体が過剰な狂言風な早口展開の中で記事として売り上げに貢献する。
記者の目線の上に作者の意図を置いて読み物風に仕上げる力量はすごい。
伊豆に根を張る同人誌の意気込みを読ませてもらった。
発行所=〒414―0031伊東市湯田町7‐12、リバーサイドヒグチ306、木内方、 岩漿文学会。
紹介者=外狩雅巳・町田文芸交流会事務局長(外狩雅巳のひろば)
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