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2016年3月 7日 (月)

文芸同人誌「季刊遠近」第59号(川崎市)

【「盗撮」逆井三三】
 冒頭で男女間格差における男に都合のよい社会システムを肯定する論を述べる。光一は、結婚生活での伝統的な家庭生活というものになじまない人間である。しかし、結婚は社会的な慣習に従うので、生活がしやすいとと考えて美人である麗美と結婚する。そのうちに、結婚生活の退屈さから抜け出すために、妻の麗美の日常を隠しカメラで盗撮し、それを秘かに観て楽しむ。しかし、妻はそれに気づいているようだ。以前から、光男は麗美が浮気してもかまわない、と彼女に言っていたので、それを意識したのかも知れない。通常の結婚生活は、夫婦愛で安定した家庭をつくるが、光男はまず麗美の様々な姿、肢体を見つめていたいという、欲望と愛情をつなげるという性格をもっている。
 構造は、谷崎潤一郎の「痴人の愛」に似ていないこともない。それよりも現代的なのは、男の欲望を中心に夫婦関係を作ろうとすりる男の試みを描いていることであろう。
 ドライな文章であるが、それなりに問題提起を含んだ人間性追求を試みた小説のように読めた。
【「忘れられた部屋」花島真樹子】
 長寿の女性が、若いときのフランス滞在中の怪奇的な体験を語るが、子供たちは、それは彼女の作り話であると説明する。読んだあとも、話がうそかまことは、わからないという、独白体の特徴を活かした物語。文体を意識しているので、創作意識が進化しているように思える。
【「遠きにありて」藤民央】
 癌を言い渡されて、都会から故郷である南方の離島の先祖の墓参をする様子を描く。癌を患うため、どこか死の視線があるらしく、その言わざる雰囲気が最後まで、読ませる。熱心に書いているのが伝わってくる。
【「婚活小説――地震のあと」森重良子
 大震災を素材に入れて、現代的な面白い話になっている。欲を言えば、婚活への情熱をもっと強く打ち出さないと、スリリングな味が不足ししまうように思う。エネルギーの出方で、作者の身体的な運動不足なところが文章にでているような気がする。
【「家宝について」難波田節子】
 なんでも現在の天皇ご夫妻が英国をご訪問した際の、英国人出席者が持っていたレセプションの式次第のパンフレットを入手した話。その事情は、持ち主の英国人男性が、奥さんを失くされ、子供たちがそれを大事にしてくれるかどうか、わからないので、日本人である作者の娘さんに提供したということらしい。そこから、一般論で人生の晩年にあたって、持ち物を整理する立場からの、いわゆる断捨離に直面した身内の芸樹家の作品の保存などの心配に話が進む。芸術家でない自分は、いかに残さないかという課題に関心があるので、反対の意味で興味深かった。
【「私の幻想小曲集よりーノーサイド」安西昌原】
 大人の童話とでもいうべきか。ラクビ―の話だが、カナカナ仙人共和国のヨコハネ市とか、シオシオシ先生など、架空の名称の付け方が面白く、なるほどと思った。
 発行所=〒215-0003川崎市麻生区高石5-3-3、永井方。
紹介者=「詩人回廊」北 一郎

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